研究課題/領域番号 |
24591890
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
横田 裕行 日本医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60182698)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳死判定 / 臓器提供 / 電気整理学的検査 / 脳血流検査 / 補助検査 |
研究実績の概要 |
平成22年7月に“臓器の移植に関する法律”が新たに施行され、脳死下臓器提供数は増加したが、その数は年間40数例と未だ少ない状況である。平成18年度厚生労働科学特別研究事業の「脳死者の発生に関する研究」では当時の脳死下臓器提供施設である4類型に属する施設、及び当時の日本脳神経外科専門医訓練C項施設、および日本救急医学会専門医施設を対象とし、年間脳死症例数の調査を行った。その結果、脳死と判定されたのは1,601例であった。平成26年10月に内閣府が公表した「臓器移植に関する世論調査の結果について」は、脳死と診断された時に臓器移植をしたいと意思を表明している割合は8.2%としている。これらの結果を総合すると、本邦における脳死下臓器提供数は本来予想される数値より大幅に少ない。眼球損傷や頸髄・頸椎損傷で脳幹反差や評価できないことも一つの原因である。このような症例が脳死状態に至った際には脳死下臓器提供への生前意思が明らかで、家族が臓器提供を承諾している場合でも上記の理由で脳死判定が出来ず、善意の意思が反映されない。したがって、このような場合でも、補助検査によって法的脳死判定が可能とする必要がある。脳死判定における補助検査は、本邦においてevidenceに基づく報告がないために現在の脳死判定基準を補完することになっていない。脳死判定に補助検査を有効に利用することで脳死判定が可能となれば脳死下臓器提供数は約3割の増加が見込めるという(平成14年度ヒトゲノム・再生医療等研究事業研究班報告書)。このような中で、我々は過去2年間の研究から脳死判定における電気生理学的な手法の有用性を検討し、過去の文献によるevidenceに基づいて明らかにした。本研究では電気生理学的手法と脳代謝等の手法から、脳死判定のgold standardといわれる脳代謝の不可逆的停止を確認することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までは重症頭蓋内疾患、主として重症頭部外傷を対象にマイクロダイアリーシス法(ブドウ糖、乳酸、ピルビン酸、グルタミン酸、グリセオールなどを測定)35例、3470サンプルを解析し、予後良好群、不良群(遷延性意識障害、脳死を含む死亡群)の結果を解析し乳酸/ピルビン酸比/(LP比)はCCPが70mmHg台以下で有意に上昇し、脳細胞死滅の虚血閾値とされるLP比 25の回帰直線から、至適CPPを検討すると70~1627mmHgと症例毎に大きな相違があり、個々の症例によって検討すべきことが明らかとなった。 一方、脳死判定に際しての補助検査の海外の位置付けについても今年度は検討した。脳死判定の際に世界的に使用されている補助検査は神経機能評価と脳血流検査である。神経機能を評価する検査は脳波、聴性脳幹誘発電位、体性感覚誘発電位などがある。脳血流検査は脳血管撮影、経頭蓋骨ドプラ―(TCD)、MR血管撮影(MRA)、CT血管撮影(CTA)、核医学的脳血流検査がある。脳死判定における補助検査に要求されるものは、脳死ではない病態を脳死の所見として判断することがないように、すなわち偽陽性所見がないことであるWijdick1やNauらの報告によるとTCDや核医学脳血流検査、CTAでは偽陽性が見られるという。また、脳死ではあるが、補助検査では脳機能が残存すると判断される場合がある(偽陰性)。特に、二次性脳障害による脳死の場合などでは頭蓋内圧の上昇が軽度であるために、脳血流が残存し、脳波活動が確認される場合もある。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年以降は過去の研究で集積した脳死や脳死でない意識障害例の電気生理学的検査結果、すなわち聴性脳幹反応や短潜時体性感覚誘発電位所見やマイクロダイアリーシスの結果、そして海外でのこれら補助検査の位置付けを総合的検討する。 ちなみに我々が過去、および今回の研究で重症頭部外傷を中心とした測定結果では予後良好群と、脳死で死亡した症例を含む予後不良群が示されており、これらを臨床所見、電気生理学的所見を突合する予定である。ちなみに、我々の集積した史心停止からの蘇生例、重症頭部外傷、脳卒中の患者で聴性脳幹反応を測定し、初回検査でV waveが存在したのは144例の中で、1回目の2回目以降I-V波潜時(評価できた症例は39例)を対象にした結果では、初回値では生存群は4.45±0.42 msec、死亡群は4.72±0.46 msecと有意な潜時の差を認めた(P=0.0268)。一方、複数回I-V波潜時が得られた症例において前回値との差を算出したところ、生存群-0.16±0.29 msec、死亡群0.13±0.59 msecと、生存群は前回値より短縮しているのに対して、死亡群は前回値より延長していた(P=0.0196)。またcut-off値を0と定めると、ABRが前回値より延長した場合は、予後不良(CPC 3,4,5)になる可能性が高いことが明らかとなり、病態や脳死診断への意義が示唆された。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究で使用を考えている機器等の購入経費にあてるため、研究費の一部を次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年以降は過去の研究で集積した脳死や脳死でない意識障害例の電気生理学的検査結果、すなわち聴性脳幹反応や短潜時体性感覚誘発電位所見やマイクロダイアリーシスの結果、そして海外でのこれら補助検査の位置付けを総合的検討する。一方、脳死判定は救急・集中治療室という極めて電気的なノイズが多い環境で行、脳波、ARB, SSEP測定は高度の技術と高性能の刺激装置、およびその結果を解析するデータ解析装置、ソフトウエアが必要である。マイクロダイアリーシスの測定位置や測定時間でも得られるデータに大きなばらつきが生じるので、我々のデータ集積結果からそれらの統一化に向けた提言も合わせておこなうことを目標とする。
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