研究課題
【背景・目的】本研究では、大腸癌組織における各ABCトランスポーター遺伝子、およびそのスプライスバリアントの発現プロファイルを次世代シーケンサーを用いて明らかにし、そして同定されたスプライスバリアントを機能解析し、スプライスバリアントによる抗癌剤耐性メカニズムを明らかにすることを目的としている。【方法】当院で手術を施行した抗癌剤投与前大腸組癌患者3例の手術検体から、正常組織と癌組織をそれぞれ回収した。また、5種類のヒト大腸癌由来細胞株を培養した。これらからtotal RNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子発現量解析(RNA-seq)を行った。本研究では、特にEnsemblデータベースに登録されている48種のABCトランスポーター遺伝子ならびにそのスプライスバリアントの発現量を詳細に調べた。【結果】1.遺伝子レベルでの発現量の解析:RNA-seqによる解析の結果、多剤耐性に関わる代表的なABCトランスポーターであるABCC1、ABCC2の発現量は正常組織に比べ癌組織で2倍以上に増加していた。一方でABCB1、ABCC3、ABCG2の発現量は正常組織に比べ癌組織で半分以下に低下していた。これらの結果は、過去の報告、およびマイクロアレイのデータと同様の発現傾向を示していた。また、次世代シーケンサーでのこれらの結果はRT-qPCRによって再現できることが確認された。2.スプライスバリアントの発現量の解析:RNA-seqによる解析の結果から、Ensemblに登録されている48種類のABCトランスポーター全505種類のスプライスバリアントについて、正常組織と癌組織・大腸癌細胞株の発現量を比較したところ、大腸癌特異的なスプライスバリアントの候補として41種類が挙げられた。これらの中で、その配列特異性からプライマーを設計することができた9種類について、RT-qPCRによってvalidation実験を行ったところ、2種類については再現性があったが、7種類については再現性を示すことができなかった。
3: やや遅れている
次世代シーケンサーによる実験により、大腸癌組織、大腸がん細胞株に発現するABCトランスポーターの全容が明らかにすることができた。しかし、ABCトランスポーターのスプライシングバリアントについては、発現は確認されたもののその発現パターン、頻度については更なるin silico解析が必要である。現在解析中であり、2014年5月までに結果が明らかになる予定である。機能解析をこれから行うところであり、研究に「若干の遅れがある」とした。
1.遺伝子レベルでの発現量の解析:今回の実験で、大腸正常組織が癌化することで、抗癌剤耐性に関わる5種類の代表的なABCトランスポーターの発現量に特徴的な変化がみられることが明らかとなった。このことから、癌化に関連する何らかのシグナルがABCトランスポーターの発現を制御しているのではないかと考え、正常組織に比べて癌組織で発現量が2倍以上に増加した遺伝子3560個を抽出しPathway解析を行った。その結果、大腸癌に関わるPathwayの中でWntシグナルの亢進がみられ、特に下流の転写因子TCF/LEFファミリーのシグナルが亢進していた。そこで、WntシグナルとTCF/LEFファミリーがABCトランスポーター遺伝子の発現に与える影響を調べるために、今後shRNAを用いてβ-cateninとTCF/LEFをノックダウンし、ABCトランスポーターの発現変化を解析する実験を行っていく予定である。2. スプライスバリアントの発現量の解析:大腸癌特異的なスプライスバリアントとして候補に挙がったもののうち、再現性を示すことが出来た2種類は発現量が大きく、また同一遺伝子由来のスプライスバリアントが少ないという特徴があり、一方で再現性を示すことができなかった7種類は発現量が小さく、同一遺伝子由来のスプライスバリアントが多いという特徴があった。今回のRNA-seqでは、発現量の定量化にCufflinksというソフトウェアを用いたが、Cufflinksでは前述のような特徴を持つスプライスバリアントの定量化において誤差が出やすいとの見解もあるため、外部業者に委託し、4種類のソフトウェア(Cufflinks, DEGseq, DEseq, TIGAR)で発現量の定量化を再度行うこととした。現在、再解析中であり、それらの結果から大腸癌特異的なスプライスバリアントについて再解析を行う予定である。
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