研究実績の概要 |
乳癌領域での免疫療法は、再発後も数年間におよぶ乳癌治療において、患者のQOL維持に最適であるが今だ十分な研究がなされていない。近年、癌の微小環境において、免疫Negative signalにより、活性化T細胞が無力化や寛容化により抑制されることが判明した。この免疫担当細胞間のNegative signalであるPD-L1(B7-H1),PD-1の相互作用を抗PD-1抗体を用いた抗体療法により阻害(blocking)することで、Negative signalから解き放たれたT細胞が本来の抗腫瘍免疫を復活させ、未開発の乳癌領域の免疫療法となりうると考え、研究を開始した。 1.免疫のNegative signalの強力な制御因子であるPD-L1(B7-H1)の乳癌での発現を、原発性乳癌の切除標本を用いて、腫瘍細胞におけるPD-L1(B7-H1)発現を抗PD-L1(B7-H1)抗体を用いて免疫染色を行った。さらに腫瘍周囲のTリンパ球におけるPD-1発現を抗PD-1抗体を用いて免疫染色を行った。乳癌サブタイプ別に予後との関連を検討し、Her-2 enrichedタイプにおいて、腫瘍細胞におけるPD-L1の発現高度群では無再発生存率が不良であることが判明した。 2.Negative signalの一つとして腫瘍上に発現し、免疫制御リガンドとして適応免疫反応において抑制系の重要な役割を担うことが報告されているB7-H3に着目し、乳癌細胞におけるB7-H3の発現とその周囲の制御性T細胞の有無に対する乳癌患者の予後を免疫組織学的染色を用いて検討した。B7-H3は、どの程度、直接に腫瘍免疫逃避に関与しているかは不明であり、また制御性T細胞は、Nagative signalとは独立あるいは相乗的に働く強力な抑制系のT細胞である。結果として、B7-H3の高発現および制御性T細胞陽性の高比率の乳癌患者では無再発生存率が不良であることが判明した(P=0.014およびP=0.039))。
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