研究課題/領域番号 |
24591918
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
住吉 秀明 東海大学, 医学部, 講師 (60343357)
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研究分担者 |
稲垣 豊 東海大学, 医学部, 教授 (80193548)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癒着防止 / V型コラーゲンa3鎖 / 組織線維化 / コラーゲンの集束 |
研究概要 |
本年度の実験計画は a3(V)鎖を含むV型コラーゲンを精製する方法について検討する事と、精製したa3(V)をマウス癒着モデルに対して投与する段階に持っていくことを中心としている。抽出原料として、まず方法論の確認段階という事と、マウスへの投与をベースとしていることから、マウスを用いてスタートすることにした。 (1) 臍帯、羊膜からa3(V)含有V型コラーゲンの精製法を検討した。妊娠18.5日目のICRマウスから臍帯と羊膜を分離し、ペプシンを用いる一般的なコラーゲン抽出法を行なった。a3(V)成分を含まない胎児真皮組織の抽出サンプルと比較しつつ、双方からI型コラーゲンとV型コラーゲンとみられる一定のタンパク成分を得た。収量は限られるものの、性状解析や細胞培養実験に用いるには十分であり、この抽出例を指標として分解酵素を使わない抽出法をさらに検討している。 (2) 遺伝子工学的手法よるa3(V) 含有V型コラーゲンの調整法の検討。V型コラーゲン発現ミニジーンベクターを構築した。これをリポフェクション法によってHEK293細胞に遺伝子導入を行ない、強制発現を行なった。a3(V)抗体によるウエスタンブロットの結果、細胞からのa3(V)回収量は僅かであり、抽出操作には堪えない分量であった。 (3) a3(V)のN末端ドメインの細胞接着に対する効果を検討した。a3(V)のN末端の機能ドメインと見なされる領域の融合タンパク質を作製し、培養皿に塗布してa3(V)産生の責任細胞である筋膜由来細胞の生育を観察したところ、有意な細胞接着活性と低血清環境下で仮足を長く伸長する独特の形態を示す活性を測定できた。今後、精製サンプルとして得られたa3(V) 含有V型コラーゲンとの比較を行なう。 (4) マウスに対する投与実験については、今回それを行なう十分量のコラーゲンサンプルを得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
a3(V)含有V型コラーゲンの精製について、臍帯・羊膜入手の簡便さと、マウス癒着モデルをバイオアッセイに用いることへの整合性からマウス由来サンプルを用いて実験を開始した。しかしながら、マウススケールでは収量が限定され、電気泳動による性状解析や小スケール細胞培養には有用であったが、その先のバイオアッセイレベルでは更なるスケールアップが必要となる見通しである。また現在、収量の高い一般的な方法とされるペプシン消化による抽出法を採用しているが、これまで解明してきたa3(V)の作用機序から、癒着防止機能のためにはN末端のヘパリン結合ドメインが保たれていることが重要であると考えられ、ペプシン消化抽出体の効用は未知数である。このため、抽出原料を分配して他の抽出法と比較していく必要があり、同様にスケールアップが次の課題となっている。これを解決する手段としてウシ、ブタなど、より大型の動物由来の抽出原料を用いることを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は前年度に生じた問題点を解決しつつ、予定されていた実験を順次行なっていく。十分量の収量を得られた精製方法によるコラーゲンサンプルを基準とし、マウスへの投与を行なう。このバイオアッセイは様々な形式を試しながら、全期間を通じて行なわれる。また本年度は並行し、精製されたa3(V)コラーゲンを用いた、in vitroによる機能解析実験も開始する。 (1) 大型動物由来の臍帯、胎盤を出発材料にして、抽出容量のスケールアップを行なう。また胎盤に比べ入手の容易な小腸のサンプルもa3(V)を含まないV型コラーゲンの抽出原料として抽出条件の設定に用いる。ペプシンを用いない抽出法、例えば ①アルカリ・酸を用いる、② 中性塩抽出法、③尿素など変性剤を用いる等の方法を試行し、得られた抽出体の比較を行なう。 (2) 高流量DEAEカラムを用いた効率的V型コラーゲン分離法の検討。I型とV型コラーゲンの分離に用いるNaCl塩析による分別法に加え、濾紙由来のセルロース繊維を担体としてジエチルアミノエチルクロライドを化学結合させることによる、通過抵抗の低いDEAEカラムを作製し、V型コラーゲンを直接結合させて分離する方法を導入する。 (3) a3(V)を含むV型コラーゲンの投与実験。 a3(V)含有V型コラーゲンを癒着モデルマウスに対し投与する。方法は ①コラーゲン溶液もしくはゲルをそのまま埋め込む方法と、②オーソドックスなフィルム担体と組み合わせる方法を基本にして取り組む。 (4) 細胞培養系を用いてa3(V)による上皮化にもたらす影響を調べる。抽出したa3(V)含有V型コラーゲンを培養皿に塗布し、表皮細胞の細胞接着活性を調べる。また、筋膜結合組織由来の間葉細胞について、a3(V)鎖によって間葉-上皮移行 (MET)がみられるかどうかをE-カドヘリン等のマーカーを用いて検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度のマウススケールでの実験によって方法論が定まってきた段階で、ウシ、ブタなど、より大型の動物由来の出発材料へ移行を行なう。哺乳類でのコラーゲン抽出条件はほとんど差が無く、マウスで確立できた条件設定がそのまま利用できると考えている。これに加え、今まで行なわれてきた濃度別NaCl塩析沈殿によるコラーゲンの分画精製法は沈殿操作によるロスが大きいが、粘度によって流速が落ちないような工夫を施したDEAEカラムを用いて、I型コラーゲンとV型コラーゲンを効率的に分別する手法があるので、これを導入する。高流量カラムを用いる方法はカラムへの吸着ロスを無視できる程度のラージスケールの精製に有力であり、将来的にヒト由来のサンプルを扱う際の抽出操作も同様のスケールとなる。この方法でa3(V)鎖を含むV型コラーゲンも分離可能であるが、ペプシン消化抽出以外の方法と組み合わせての実績は報告されていないので、本実験において検討されるべき課題である。抽出方法論の整理はヒト抗癒着治療法に応用する上で理想となる、ヒト臍帯由来の実験サンプルを使わせていただくためにも必要な情報となる。
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