研究課題/領域番号 |
24591918
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
住吉 秀明 東海大学, 医学部, 講師 (60343357)
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研究分担者 |
稲垣 豊 東海大学, 医学部, 教授 (80193548)
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キーワード | 癒着防止 / V型コラーゲンα3鎖 / 組織線維化 / コラーゲンの集束 |
研究概要 |
本年度の実験計画は前年度に引き続きα3(V)鎖を含むV型コラーゲンを、より効率的に精製する事と、精製されたコラーゲンサンプルを様々に加工するするステップ、さらにはマウス癒着モデルを作製した上で実際の投与形式を試行していくことを中心として行なわれた。 (1) ブタの羊膜・胎盤を出発材料として、前年度にマウスによって得られた方法に基づきコラーゲン抽出を行なった。ペプシンを用いた抽出法で十分量のI型、V型コラーゲンを得ることが出来た。ペプシン不使用例では2M尿素を用いてもV型コラーゲンを抽出できないことも明らかとなった。 (2) 抽出したI型とV型コラーゲンを様々な比率で混合し、コラーゲンスポンジを作製した。走査電子顕微鏡によるコラーゲン線維の観察により、α3(V)成分を含むV型コラーゲンを増量することにより、線維形成が抑制されることが示された。これらのコラーゲンの混合体をスポンジ状とフィルム状に加工を行った。 (3) 癒着モデルマウスとして、皮下縫合糸埋め込みモデルと盲腸擦過モデルを作製した。両者の比較から、フィルム状に加工されたコラーゲンシートを貼り付けるのに適し、癒着モデルとして広く用いられている盲腸擦過モデルを主に採用し、まずI型コラーゲンフィルムで投与実験を行った。癒着は陰性対照と同様に形成されることが確認された。 (4) α3(V)成分を分泌する皮下浅筋膜由来細胞の単離を、穏和なコラーゲナーゼ処理により行った。空胞と油滴を含む仮足を持った均質な細胞が採取できた。血清で活性化した細胞からRNAを抽出し発現アレイ解析を行ったところ、α3(V)遺伝子が強く発現している他、典型的な間葉系細胞の発現パターンを示していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度から課題となっていた癒着モデルの投与実験行うのに十分量のI型・V型コラーゲンを確保する方法に対しては、マウスからブタの羊膜・胎盤を用いることによるスケールアップによって今年度内に解決できた。対して、ペプシンを使わない方法で完全長に近いV型コラーゲンα3(V)鎖を抽出方法する課題については、酸による抽出、コラーゲンに影響を及ぼさない濃度での変性剤を使用しても、ほとんど抽出できないことが明らかとなった。現在、ヒアルロニダーゼ等の酵素による分解による方法も別に試している。一方、ヒトとブタではペプシンの切断部位が異なることによって、ブタα3(V)鎖がヒトで報告されているものより高分子量で抽出されていることがタンパク質の電気泳動により示された。これによりブタα3(V)鎖ではペプシン分解によってもN末に癒着防止に関わると考えられている塩基性アミノ酸に富む領域が含まれている可能性があり、アミノ酸シークエンスを含めて精査する必要性が出て来たため、新たに必要な実験系の準備を行っている。 動物実験については、コラーゲン抽出体が得られた段階でこれらを配合したコラーゲンフィルムとスポンジの開発が完了し、少し遅れながらも計画に準じて投与試験が行なわれている。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は研究計画の最終年度であり、癒着モデルマウスを用いた抗癒着効果のバイオアッセイとその評価が中心となる。 (1)癒着モデルマウスへの癒着防止剤の投与実験。25年度の成果によって整備された、盲腸擦過癒着モデルに、ブタα3(V)鎖含有コラーゲンフィルムを巻き付ける形式を中心としてデーターを収集し、詳細な解析を行う。α3(V)鎖を含むV型コラーゲンの配合比を変化させ、その効果について癒着スコアを集計する。 (2)癒着組織の病理学的評価を行う。①基本的な病理組織解析を行い、癒着面の組織像、炎症細胞の浸潤とその程度、線維化の程度を中心とした判定を行う。②電子顕微鏡を用いて、コラーゲン線維の形態観察を行う。特にα3(V)鎖を巻き込んだコラーゲン線維に特徴的にみられる、毛羽立った表面構造、細く枝分かれした線維、線維周囲の付着物の有無に注意し、α3(V)鎖の関与を判定する。③同じく電子顕微鏡を用い、α3(V)鎖を含む癒着防止シートの境界面上に、上皮様構造を持った細胞が誘導されているかどうかを観察する。α3(V)鎖を含む足場に対する接着と基底膜状の分泌物の形成、細胞間密着結合の形成、接着面の反対側へのコラーゲン分泌の抑制等の特徴を観察対象とする。 これらの要素を総合し、α3(V)鎖の抗癒着効果についての評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
埋め込み型抗癒着剤の素材となるα3(V)鎖含有V型コラーゲンの効率的な抽出法について、平成24年度から継続して行っており、原料をマウスからブタ由来とし、また抽出方法の改良を行った。これまでに素材となるコラーゲンの精製と、加工方法の開発に時間がかかり、新たに作製した素材を用いた抗癒着シートの動物実験は平成26年度から本格的に行われる予定である。また、ブタのV型コラーゲンα3鎖はペプシン切断部位がヒトと異なっており、抗癒着活性に重要と見なされる領域をN末に残した状態で抽出されている可能性が示されたため、これを証明するために新たにペプチドマッピングや、アミノ酸配列決定の実験計画も26年度に追加して盛り込まれることにした。繰り越される予算は、これらの目的のために用いられる。 (1) 癒着モデルマウスへの癒着防止剤の投与実験。平成25年度の後期から26年にかけて行われる予定であった、癒着防止剤のin vivo投与実験は少し遅れて26年度を中心に行われる。実験項目は当初の計画通りに、①癒着の有無とスコアリング、②病理組織解析による評価、③電子顕微鏡を用いたコラーゲン線維の超分子形態の観察と上皮細胞の誘導の各項目について検討し確認を行い、数量は25年度分を加えて増量される。 (2) コラーゲンのサンプルをブタ由来にしたことに伴い、ブタ由来のV型コラーゲンα3鎖の性状、特にN末のアミノ酸配列の解析を付加する。実験の計画は、①逆相カラムによるV型コラーゲン各α鎖の分離、②ペプチドマッピングによる各α鎖のトリプシン分解産物のパターン解析、③アミノ酸配列決定等を行う。
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