今年度は実験計画の最終年度であり、抽出したブタ胎盤由来V型α3コラーゲン(以下α3(V))を含有するコラーゲン抽出体から、癒着防止デバイスを作製し、実際に癒着を防止できるかを調べるバイオアッセイを中心とした実験を行なった。 (1)癒着防止実験の実施 ①癒着モデルマウスは盲腸を湿潤ガーゼにて擦過し、6日後に観察するモデルを用い癒着強度のスコア化を行なった。 ②ブタ胎盤コラーゲンからフィルム状生体埋め込みデバイスを加工し、α3(V)画分を配合したものを作製した。 ③癒着モデルマウスで癒着防止デバイスを用いた抗癒着能試験を行った結果、α3(V)を含む全事例に癒着が観察され抗癒着効果を見出すことが出来なかった。 (2)6日後の生体埋め込みデバイスの観察結果 ①貼り付けたフィルムは脱落せず、保持されていたが、外周に線維芽細胞が遊走しておりコラーゲン線維の増生がみられた。期待した表皮細胞による被覆は観察できなかった。 ②走査電顕でも擦過表面の観察を行ったが、コラーゲン皮膜上の上皮細胞の進展は認められなかった。 (3)Mass解析によるブタ胎盤V型コラーゲン抽出物の精査 動物実験と並行して、ブタ胎盤V型コラーゲン初回抽出画分の、ペプチド断片化と、逆相クロマトグラフィー、各フラクションのMass解析を行った。V型α1、α2、I型α1が同定されたが、α3鎖は検出できなかった。 これまでの解析から、ペプシンと塩析によるV型コラーゲン抽出法で有効量のα3鎖が回収されなかったことが、抗癒着効果が得られなかった主原因と考えられた。活性を保つ全長分子を外部に抽出することは困難であり、α3(V)と他のECM分子との相互作用は強力であった。これを受けて、癒着防止作用につながるα3(V)鎖と他ECM分子への働きかけをみるため、α3(V)有効成分を低分子化して、逆に生体内に送り込む方法の検討を現在行っている。
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