研究実績の概要 |
スキルス胃癌細胞株58As9を用い、胃癌腹膜播種の形成機序が従来の腹腔内直接散布説ではなく、胃癌原発巣に誘導されるHIF-1α依存的な血管・リンパ管侵襲を介した遠隔転移である可能性をヌードマウス同所性移植モデルにて立証し報告した (Int J Oncol. 2013)。この研究成果を元に、腹膜播種形成がマウス移植胃癌周囲の血管・リンパ管新生に端を発する機序およびヒト胃癌細胞58A9より分泌される液性因子によりマウス胃壁内の脈管系幹細胞(VSC)がde novo分化する機序を想定した。 まずマウスembryonic stem(ES)細胞 EB3を中胚葉に分化させた後、胃癌細胞株58As9の培養上清およびコントロールを添加し、経時的に形態学的変化および血管・リンパ管内皮細胞マーカー遺伝子の発現変化につき解析した。その結果、58As9上清添加ではcontrolに比し、EB3とは形態が明らかに異なる扁平colonyが多数形成された。遺伝子発現解析では、58As9上清はコントロールに比し血管分化初期マーカーPECAM1, CD34が有意に発現上昇した。また、リンパ管内皮分化初期マーカーVEGFR3, Prox1の有意な上昇を認めた。さらに驚くべきことには、マウスES細胞の未分化状態維持に必須なLIF因子が除去された状況にもかかわらず、ES細胞の未分化マーカーであるOCT3/4, Nanog発現が上清添加後再上昇することが明らかとなった。尚、常酸素と低酸素で調整した上清間に明らかな誘導能の違いは見られず、HIF-1αは脈管新生ではなく脈管侵襲ステップに関与することが推測された。以上より、58As9細胞はマウス中胚葉細胞を脈管系(血管・リンパ管)幹細胞にリプログラミングする何らかの液性因子を分泌している可能性が推測された。
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