研究課題/領域番号 |
24591960
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
竹内 裕也 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (20265838)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 食道扁平上皮癌 / ケモカイン / ケモカインレセプター |
研究概要 |
癌-宿主間のケモカインネットワークに着目し、以下のような研究を行った。 1)術前未治療の食道扁平上皮癌切除79例における食道癌組織中のケモカインレセプターCXCR4とケモカインCXCL12の発現を検討したところ、CXCL12陽性例はCXCR4陽性である割合が高い傾向を示した。またCXCL12陽性例・CXCR4陽性例はそれぞれ細胞増殖の指標であるMIB-1 Indexが陰性例と比較して有意に高かった。さらにCXCL12陽性例は有意に予後が不良であった。 2)食道癌in vivoモデルを用いたCXCR4阻害薬を用いた転移抑制効果の検討.106個の食道扁平上皮癌細胞株TE4をヌードマウス背部に皮下注し、腫瘍体積を経時的に測定するとともに、HIV治療薬として開発中のケモカインレセプターCXCR4阻害薬(AMD3100®)を定期的に静注したところ、AMD3100投与群で腫瘍増殖が有意に抑制された。 3)食道扁平上皮癌におけるCXCL12/CXCR4ネットワークの解明.食道癌細胞株CXCR4発現株(TE4)培養上清にリガンドであるCXCL12を添加すると、細胞増殖が有意に亢進した。一方、このTE4にCXCL12発現プラスミドを遺伝子導入し、CXCL12高発現株を作成したところ、CXCL12は培養上清中に高濃度に検出され、細胞増殖は有意に亢進した。これらの細胞増殖亢進はAMD3100投与で有意に抑制されたことから、食道扁平上皮癌の増殖にはCXCL12/CXCR4のautocrine systemが関与していることが示唆された。 4)食道扁平上皮癌切除検体におけるCXCR2とCXCL8(IL-8)の発現を検討したところ、CXCR2(+)CXCL8(+)例は腫瘍の進行度と相関し、最も予後不良であることが明らかとなった。腫瘍組織中のCXCL8発現は患者血清IL-8濃度と有意に相関していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食道扁平上皮癌におけるケモカインネットワークの腫瘍学的な意義を明らかにしつつある。従来、ケモカインレセプターであるCXCR2発現のみが、固形癌の発育進展に関与すると考えられてきたが、食道癌においてはこれまでの検討でリガンド(ケモカイン)であるCXCL12発現が患者予後に関与しており、かつCXCL12-CXCR2間のautocrineが腫瘍伸展に重要であることを明らかにした。また他の重要なケモカインネットワークとしてCXCR2-CXCL8(IL-8)にも着目し、これらの臨床病理学的意義を明らかにした。さらにこれらは、AMD3100のような新規薬剤によって腫瘍抑制効果が得られることも明らかになってきており、当初の目標である悪性度診断の指標としてだけでなく、治療標的となりうることが示唆される。今後、メカニズムの解析とともに悪性度診断、治療への応用をさらに模索していく。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年―26年度基盤研究C「ケモカインネットワークに着目した食道癌の新しい悪性度診断と治療法の開発」(研究代表:竹内裕也)により、これまでの研究を継続する。 CXCL12-CXCR2間あるいはCXCR2-CXCL8(IL-8)間のautocrineのメカニズムだけでなく、paracrineについてもその意義を検討する。 さらに食道扁平上皮癌臨床検体におけるケモカイン(CCL21, CXCL12, IL8)・ケモカインレセプター(CCR7, CXCR4, IL8 receptor)のプロファイルと臨床病理学的因子や予後、化学療法や化学放射線療法の治療効果との関連について詳細に検討を行い、臨床上有用なケモカインプロファイルの開発に着手する。 またDrug delivery systemを用いて、AMD3100をバイオナノ粒子に組み込んだ上、食道癌細胞のEGFレセプターなどを介して癌細胞選択的に取り込まれるような新しいターゲティング療法を開発していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は主にin vitroと動物モデルを用いた研究を行い、食道扁平上皮癌細胞におけるケモカインレセプターの発現を確認し、その機能実験、機能阻害実験を行う。また臨床検体での検証を行い、癌-宿主間のケモカインネットワークが、臨床特性と相関するか否かを明らかにする。このためPCR primer・試薬費用や、免疫染色用抗体・試薬費用、細胞培養機器・培養液等の購入費用が主となる。また食道癌転移動物モデルを用いた転移抑制実験を行うため、ラット、マウスの購入費用を計上する。 調査研究費、成果報告費用としての国内・外国旅費を計上する。また謝金、その他は必要最小限とする見込みである。 なお今年度は未使用額が発生したがこれは効率的な物品調達を行ったためで、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。
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