研究課題
1.HSP90阻害剤AUY-922 による食道癌細胞増殖抑制効果の検討:HSP90阻害剤AUY922をヒト食道癌培養細胞TE-1,TE-4,TE-8およびTE-10に加えたところ、全ての細胞株において細胞増殖抑制効果がみられたが、細胞株による差異が認められた。初年度まではトリパンブルー染色によって生細胞数を計算し、細胞増殖抑制効果を算出していたが、本年度からは細胞株における感受性の差異を検出するために、WST-1法を導入してより正確な増殖抑制効果の測定を行っている。各細胞株のIC50は、感受性が高いと推定されたTE-4 では25nM、TE-1, TE-8 およびTE-10は60から90nMと感受性が低いことが判明した。2. AUY-922 による食道癌細胞増殖抑制機序:AUY-922による食道癌細胞増殖抑制の分子生物学的機序を明らかにするため、癌増殖関連分子の発現をウエスタン・ブロッテイング法により検索した。AUY-922によりTE-1およびTE-8でリン酸化Aktの抑制を、TE-4においてPTENの発現低下を認めた。AUY922に対する感受性の差がPTENの発現によって制御されている可能性が示唆された。3.食道癌転移動物モデルにおける抗腫瘍効果の検討:ヒト食道癌細胞,ヒトバレット食道癌細胞SEG-1 およびヒト口腔扁平上皮癌細胞SASを各々ヌードマウスの背部皮下に注射して、腫瘍形成および増殖がみられたものを食道癌転移モデルとして設定。食道癌転移モデルに対し、AUY922の抗腫瘍効果を解析する。4.意義と重要性:これまで消化器癌培養細胞(平成21年度基盤研究C)、KRas変異型肺腺癌培養細胞(平成23年度基盤研究C)を用いてHSP90阻害剤による増殖抑制効果を示し、その分子生物学的機序を解析したが、食道癌においてはその意義は明らかでない。本研究でHSP90阻害剤AUY-922の食道癌培養細胞に対する増殖抑制効果と増殖関連分子発現との関連とその意義を検討し、国内外の学会および誌上発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した「研究の目的」のうち、1.新規HSP90阻害剤AUY-922 による食道癌培養細胞に対する増殖抑制効果の確認および、2.HSP90阻害剤AUY-922 による食道癌細胞の増殖抑制機序の解明については達成し、誌上発表も行った。これらは「研究計画・方法」に記載した平成24年度の計画に相当する。さらに平成25年度以降の計画である食道癌転移動物モデルの作成についても予定通り進捗している。
交付申請書に記載した研究計画に則り、HSP90阻害剤AUY-922 による食道癌細胞の増殖抑制機序をさらに詳細に解明し、その結果を用いて、食道癌転移動物モデルにおけるHSP90阻害剤の抗腫瘍効果の検討を進める予定である。同モデルに対して、AUY922の抗腫瘍効果を検討する基礎実験を行い、抗腫瘍効果の検討を通じて得られたHSP90阻害剤の適正用量・投与時間の設定を行う。培養細胞から動物実験に至る研究成果を、臨床応用可能な新規分子標的治療法として、引き続き国内外の学会および誌上発表を行う。
当初の実験計画通りHSP90阻害剤が食道癌細胞の増殖シグナルに与える影響を確認できたており、本年度までは実験条件初期設定に用いる抗体等の試薬類にかかる費用が比較的抑えることができたため。次年度使用額は平成26年度請求額とあわせて、HSP90阻害剤の抗腫瘍効果の解析をさらに深めるため、引き続き情報伝達解析用試薬、癌転移動物モデルとしての実験動物などを新規購入する資金が必要である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (3件)
Oncology Reports
巻: 29(1) ページ: 45-50
Current Cancer Drug Targets
巻: 13(3) ページ: 289-299
Cancer biology & therapy
巻: 14(3) ページ: 230-236