研究課題/領域番号 |
24591966
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森田 勝 九州大学, 大学病院, 講師 (30294937)
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研究分担者 |
坂口 善久 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), 消化器外科, 消化器外科部長 (00215625)
藤 也寸志 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, 副院長 (20217459)
沖 英次 九州大学, 大学病院, 助教 (70380392)
掛地 吉弘 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80284488)
佐伯 浩司 九州大学, 大学病院, 助教 (80325448)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 食道癌 / 喫煙 / 飲酒 / 癌抑制遺伝子 / p53 / LOH / 染色体不安定性 |
研究概要 |
食道扁平上皮癌の発生におけるp53遺伝子座loss of heterozygosity(LOH)のがん発生における意義:食道扁平上皮癌切除標本と細胞株にて、癌抑制遺伝子p53の遺伝子変異とLOHについて検討した。【結果】1.p53遺伝子変異とLOH: p53遺伝子変異を46.2%、LOHを51.6%に認めた。p53遺伝子変異症例では高頻度(73.8%)にLOHを伴っていた。2.LOHのメカニズム:食道癌細胞株10株中4株にp53遺伝子変異を認めたが、すべてで野生型シグナルが変異シグナルに完全に置換されていた。LOHの存在が示唆されたため、CGHにより遺伝子コピー数を解析したが明らかなコピー数変化を認めなかった。また、切除標本と細胞株にてFISHを施行したところ、p53遺伝子変異を伴うLOHの85.7%がコピー数変化を伴わないLOH(コピーニュートラルLOH)であった。SNP-CGHにて解析したところ、染色体不安定性がコピーニュートラルLOHの原因であることが示された。以上より、食道癌におけるp53遺伝子座のコピーニュートラルLOHががん発生に重要であることが示唆された。 食道癌におけるLong interspersed nuclear element-1 (LINE-1)メチル化の意義:LINE-1DNAのメチル化はゲノム全体のメチル化の指標とされている。癌細胞ではゲノム全体のメチル化レベルが低下し、癌の悪性度が高いほどメチル化は低下することが報告されている。食道癌にて検討したところLINE-1メチル化が低い症例では、進行癌の症例が有意に多く、また予後不良となる傾向があることから、LINE-1メチル化は予後因子となる可能性がある。また、リンパ脈管侵襲やp53変異とゲノム全体のメチル化低下との共存が癌細胞のEMT化や癌の進行に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「喫煙・飲酒による食道癌発癌における癌抑制遺伝子異常の機序解明と治療戦略の構築」と題し、p53を中心とした癌抑制遺伝子に注目し研究をすすめている。これまでに、食道癌における癌抑制遺伝子p53の遺伝子変異パターン、染色体ダイナミックス解析が切除標本および細胞株レベルにおいて検討し、食道癌発生におけるLOHのメカニズムおよび染色体不安定性との関係が明らかになった。さらに、LINE-1のメチル化を検討することにより、ゲノム全体の低メチル化が食道癌の進展に深く関与している可能性が示唆された。これらの知見は食道癌の発生、進展を解明する上で非常に意義深いと考えられる。当初の計画において「喫煙、飲酒→代謝酵素異常による感受性の増加→癌抑制遺伝子異常→発癌」の仮説の検証およびその際に惹起される「癌抑制遺伝子の機能異常のメカニズム」が解明を目標としたが、ここまでの研究成果は機能異常のメカニズム解明につながるものであり、「研究はおおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行ってきた食道癌におけるp53遺伝子の遺伝子変異パターン、染色体ダイナミックス、LINE-1のメチル化の結果を実際の喫煙・飲酒の状況と比較する。また、免疫組織化学染色やウェスタンブロットでタンパク発現を検討し、実際に発現異常につながっているか検討する。さらに、アルデヒド脱水素酵素―2(ALDH2)などアルコール代謝に関与する酵素の遺伝子多型および局所での発現との相関を検討し、代謝酵素の遺伝子多型に伴う各個人の発癌感受性が癌抑制遺伝子に及ぼす影響についても考察する。それにより、「喫煙、飲酒→代謝酵素異常による感受性の増加→癌抑制遺伝子異常→発癌」の仮説の検証が期待できる。 さらに、食道微小病変におけるp53遺伝子を解析し、免疫組織化学染色の結果を比較検討することにより遺伝子異常とタンパク発現の相関を検討するとともに、正常上皮、異型上皮、上皮内癌、浸潤癌における遺伝子異常を比較検討することにより癌化の各段階における遺伝子異常のメカニズムと喫煙・飲酒との関係につき考察する。 これらの結果をもとに、食道・頭頸部の扁平上皮癌の発生における喫煙、飲酒の関与、それらの標的遺伝子としての癌抑制標的遺伝子の位置づけ、さらにはDNA 変異、タンパク発現異常、染色体異常などのメカニズムを明らかにする一方で、酸化的DNA 損傷が癌抑制遺伝子変異に与える影響を検討する。さらに、発癌感受性の面から代謝酵素の食道組織における発現に着目し、癌抑制異常に及ぼす影響につき考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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