研究課題/領域番号 |
24591966
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森田 勝 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30294937)
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研究分担者 |
坂口 善久 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), その他部局等, その他 (00215625)
藤 也寸志 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, その他 (20217459)
沖 英次 九州大学, 大学病院, 講師 (70380392)
掛地 吉弘 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80284488)
佐伯 浩司 九州大学, 大学病院, 助教 (80325448)
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キーワード | 食道癌 / 喫煙 / 飲酒 / 癌抑制遺伝子 / メチル化 / ポドプラニン / 上皮間葉移行 |
研究概要 |
食道扁平上皮癌におけるポドプラニン発現と上皮間葉移行(EMT)との関連:ポドプラニンは膜貫通型糖タンパクで、扁平上皮癌や中枢神経系腫瘍で発現し、癌細胞の浸潤亢進や転移促進が報告されている。その浸潤形態は上皮間葉移行(EMT)型と非EMT型とが存在し、議論の余地がある。今回、ポドプラニン遺伝子を食道癌細胞株に導入し、浸潤能の変化と浸潤形態を観察した。また臨床検体でポドプラニン発現と上皮系と間葉系マーカー発現との関連を免疫組織学的染色にて評価した。その結果、ポドプラニン導入株では浸潤能の亢進と共に集塊形成型の浸潤傾向が観察され、非EMT型の浸潤形態であった。臨床検体でポドプラニン陽性例は非EMT型の浸潤像を呈し、脈管侵襲を高率に伴い予後不良であった。したがって、ポドプラニンは食道癌の非EMT型の浸潤形態へ寄与し、食道癌の予後規定因子であることが示された。 食道癌におけるLong interspersed nuclear element-1 (LINE-1)メチル化の意義:LINE-1DNAのメチル化はゲノム全体のメチル化の指標とされている。癌細胞ではゲノム全体のメチル化レベルが低下し、癌の悪性度が高いほどメチル化は低下することが報告されている。食道癌にて検討したところLINE-1メチル化が低い症例では、進行癌の症例が有意に多く、また予後不良となる傾向があることから、LINE-1メチル化は予後因子となる可能性がある。さらに、正常食道のメチル化低下と喫煙量、飲酒量は有意に相関していることが判明した。したがって、喫煙、飲酒が食道全体のメチル化低下を惹起し、発癌と何らかの関わりがある可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「喫煙・飲酒による食道癌発癌における癌抑制遺伝子異常の機序解明と治療戦略の構築」と題し、p53を中心とした癌抑制遺伝子に注目し研究をすすめ、これまでに食道癌における癌抑制遺伝子p53の遺伝子変異パターン、染色体ダイナミックス解析が切除標本および細胞株レベルにおいて検討し、食道癌発生におけるLOHのメカニズムおよび染色体不安定性との関係が明らかにしてきた。今回、ポドプラニンというタンパクに着目し、食道癌の浸潤および上皮間葉移行に関係していることを明らかにした。さらに、LINE-1のメチル化を検討することにより、ゲノム全体の低メチル化が喫煙、飲酒と相関するのみでなく、食道癌の進展に深く関与している可能性が示唆された。これらの知見は食道癌の発生、進展を解明する上で非常に意義深いと考えられる。当初の計画において「喫煙、飲酒→代謝酵素異常による感受性の増加→癌抑制遺伝子異常→発癌」の仮説の検証およびその際に惹起される「癌抑制遺伝子の機能異常のメカニズム」が解明を目標としたが、ここまでの研究成果は機能異常のメカニズム解明につながるものであり、「研究はおおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今回、明らかになった癌細胞におけるポドプラニンの発現の結果に加え、間質細胞におけるポドプラニンの発現についても検討し、相互の関係を比較検討すする。また、今回、あきらかとなった喫煙。飲酒とLINE-1のメチル化の相関をさらに症例をふやして検討するとともに、食道癌におけるp53遺伝子の遺伝子変異パターン、染色体ダイナミックス、と比較する。また、免疫組織化学染色やウェスタンブロットでタンパク発現を検討し、実際に発現異常につながっているか検討する。さらに、アルデヒド脱水素酵素―2(ALDH2)などアルコール代謝に関与する酵素の遺伝子多型および局所での発現との相関を検討し、代謝酵素の遺伝子多型に伴う各個人の発癌感受性が癌抑制遺伝子に及ぼす影響についても考察する。それにより、「喫煙、飲酒→代謝酵素異常による感受性の増加→癌抑制遺伝子異常→発癌」の仮説の検証が期待できる。 さらに、食道微小病変におけるp53遺伝子を解析し、免疫組織化学染色の結果を比較検討することにより遺伝子異常とタンパク発現の相関を検討するとともに、正常上皮、異型上皮、上皮内癌、浸潤癌における遺伝子異常を比較検討することにより癌化の各段階における遺伝子異常のメカニズムと喫煙・飲酒との関係につき考察する。同様の検討をポドプラニンの発現についても検討を行なう。 これらの結果をもとに、食道・頭頸部の扁平上皮癌の発生における喫煙、飲酒の関与、それらの標的遺伝子としての癌抑制標的遺伝子の位置づけ、さらにはDNA 変異、タンパク発現異常、染色体異常などのメカニズムを明らかにする一方で、酸化的DNA 損傷が癌抑制遺伝子変異に与える影響を検討する。さらに、発癌感受性の面から代謝酵素の食道組織における発現に着目し、癌抑制異常に及ぼす影響につき考察する。
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