研究課題/領域番号 |
24591978
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
古畑 智久 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (80359992)
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研究分担者 |
沖田 憲司 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70517911)
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キーワード | 大腸癌 / MMP-2 / EMMPRIN / 線維芽細胞 / FGFR / FGF / EMT |
研究概要 |
昨年度の研究では、in vitroにおける大腸癌細胞株と線維芽細胞の共培養の系で、大腸癌細胞はEMMPRINを産生し線維芽細胞のMMP-2発現を誘導していること、線維芽細胞は液性因子を産生し大腸癌細胞のEMMPRIN発現を誘導していることが考えられていた。本年度は、細胞株を増やし検討したところ7種の細胞株中5株でこの現象が確認され、invasion assayにおいても浸潤能の亢進が確認された。これらは、共培養液にEMMPRIN抗体を加えることによって抑制される傾向が示され、EMMPRINは両細胞を媒介する重要な因子であることが確認された。さらにこれらの細胞株では同時にFGFRの発現を認めており、文献的(Henriksson ML et al. Am J Pathol. 2011)に報告されているFGF1/FGFR3による線維芽細胞から癌細胞へのシグナル経路の存在が伺われた。Invasion assayで認められた浸潤能亢進は、fibroblast growth factor receptor inhibitor によって抑制されることが確認された。さらに発現レベルが低く再現性に乏しいものの、癌細胞と線維芽細胞の共培養の系においてEMTのマーカーであるSnailの発現を認めており、線維芽細胞はEMT誘導に重要な役割を担っているものと考えられる。 臨床検体を使用した解析では、Stage2および3大腸癌手術症例37例の免疫組織学的解析を行った。MMP-2の発現は間質において43.2%、EMMPRINの発現は癌細胞において51.4%において認めた。両者の発現は、相関(P=0.0025)を認め、in vitroの実験結果を裏付けるものであった。MMP-2およびEMMPRINは病理学的因子との関連を認めなかったが、MMP-2、EMMPRINともに発現を認める症例は、予後不良の傾向(P=0.0771)を示しており、今後の症例数の追加、観察期間の延長などによりMMP-2とEMPPRINは有意な予後因子となりうるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に確立した大腸癌細胞株と線維芽細胞株の実験系によって、より多くの細胞株を使用し、EMMPRINとMMP-2の関連を証明できた。さらに、昨年度に検討できなかったEMTのマーカーであるSnailの発現を確認できたことも今後の研究に向けてあらたな知見と考えている。そして、癌細胞株と間質細胞のサロゲートとして使用した線維芽細胞株とのクロストークの媒体としてFGF/FGFRのシグナルの存在を伺わせる結果を得たことも今後の研究計画を立案する上でも重要な成果と考えている。 臨床検体を使った検討では、EMMPRINの免疫染色の条件設定にやや時間をようしたものの安定した結果を得ることができるようになり、今後は症例数を重ねていくのみ問う言う檀家まで達したものと考えている。しかしながら、EMT関連マーカーのSnailやE-cadherinの免疫染色は終了しておらず、in vitroの結果を臨床検体で確認できていない。
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今後の研究の推進方策 |
癌細胞株と線維芽細胞株との共培養系において癌細胞においてSnailの発現を認めたもののその発現量は低いせいか安定した結果を得られていない。今後の計画として、大腸癌組織近傍の線維芽細胞を分離し、癌細胞との共培養系を確立したい。そのことによって、よりin vivoに近い現象を再現できるとともに、癌細胞関連線維芽細胞(CAF)の特徴を検討することも可能と考えられる。文献的にも癌細胞周辺の線維芽細胞では、Fibroblast activation protein(FAP)の発現が認められており、その細胞を使用した実験系の確立は重要と考えている。この実験系を確立すると、CAFから様々なサイトカイン、特にFGFの産生が予測され、様々なEMT関連因子の発現が誘導されるものと考えられる。これまでの研究成果と文献的検索によってキーとなる因子はFGF/FGFRシグナルと考えている。このシグナルを促進および抑制することによってin vitroでの癌細胞の性質の変化、さらにはヌードマウスのでの腫瘍形成能などを検討したい。 臨床検体を用いた検討では、これまでの免疫染色に加え、FGFR、Snail、E-cadherinなどの染色を行い、EMTのポテンシャルのある症例が予後不良であることを証明し、あらたな分子標的の候補を提案できる結果を示したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費については、既存試薬の使用で本年度はまかなえる部分が多かったため支出が少なかった。また、国際学会での発表を想定していたが、国内学会のみの発表に留まったため、支出が少なかった。 本年度は、これまで使用していた試薬在庫がなくなっため、抗体、核酸抽出薬など多量の購入が見込まれる。また、学会発表も国内外で可能なレベルに結果がまとまりつつあると考えているので、旅費や論文作成費の支出が増すものと考えられる。
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