研究概要 |
大腸癌の発生はAPC,K-ras,PRL-3と多段階的に生じる分子異常の蓄積で起こることが知られている。これら遺伝子変化(変異、増幅)の臨床的意義を多数検体で同時に調べた報告はなく、またそれらの治療標的としての可能性についても十分検討されているとはいえない。われわれはこれまでの研究からK-ras変異とPRL-3遺伝子発現増加が大腸癌治療標的として特に有望とする研究結果を得ているが、今回はそれをさらに発展させPRL-3抑制の治療的意義をK-ras変異の影響有無で分けて分析することにより大腸癌における分子標的治療の可能性を探ろうと本研究を企画した。 平成25年度は以前報告した大腸癌のPRL-3遺伝子発現増加と遺伝子増幅の関係について検証した。大腸癌におけるPRL-3遺伝子増幅の頻度はDukes A/B versus Dukes C/Dで大きく異なっていたが(Hatate K,Oncol Rep 2008)、今回の遺伝子増幅についての検討も評価した。PRL-3遺伝子増幅は大腸癌の 31%に認められ、ステージによる差はほとんどみられなかった。Stage I, III, IV では 30-40% の異常が見られたが、 Stage IIでは15%ほどと頻度が少なく Stage IIの大腸癌は Stage Iからの一部の亜型であることが示唆された。一方、予後解析では 再発のある Stage である Stage II-IVにおいて PRL-3 遺伝子増幅例は予後が有意に不良であり (p=0.017)予後の多変量解析を行った。多変量ではステージと独立した有意な因子とはならなかったが、大腸癌の予後に影響を与える分子として注目に値すると考えた。また、肝転移における PRL-3 遺伝子増幅を調べた結果、原発癌では増幅例が少なく、大腸癌の肝転移の切除例では PRL-3遺伝子の増幅に関しては minor populationを標的とする可能性が示唆された。
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