研究課題
基盤研究(C)
本研究では、がん細胞の組織内浸潤、あるいは転移等の動態において、必須の因子と考えられている金属要求性蛋白分解酵素群マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性化を生体中では、膜型MMPをはじめとする相互活性化システムと血液線維素溶解系(線溶系)因子プラスミンが担っていることに注目し、主に消化器系のがん病態における各種プロテアーゼ活性化の実態と意義を明らかにすることを主目的とし、さらに線溶系因子あるいはMT1-MMP等の活性を標的として、MMPの活性カスケードを上流から抑制することによる主に消化器がんの新規分子療法の可能性を探ることまでをその目的の範疇とする。研究代表者らは、今年度の研究では、消化器癌の大腸癌モデルマウスを作製するために、近交系マウスC57BL/6を用いたコントロール実験を行い、azoxymethane(AOM)誘発大腸がんモデルによる評価系を確立した。また、マトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)ノックアウトマウスを用いて大腸がんモデルを作製し、線溶系に対するがんの病態変化を比較検討した。抗線溶-プラスミン阻害剤の作用機序を解明するために、今後は、プラスミン阻害剤を用いた実験を行うと同時に、線溶系因子プラスミン(Plg)ノックアウトマウスを用いて同様の実験を行う予定である。すでに我々の過去の研究では、末梢組織中で血管新生因子、ケモカインの供給源となる骨髄由来の炎症性細胞の主要組織中への動員抑制を介してリンパ腫細胞増殖が制御されていることが明らかとなっている。本年度の研究でも骨髄由来細胞の関与が示唆されているため、同様な実験を繰り返し、これらの関与を明らかにする。そして、骨髄由来細胞の動員に関与する各種プロテアーゼ活性が、ある種のがんに対して、新規分子標的薬になる可能性を追求する。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、消化器がんモデルマウスおよび患者検体を使用し、異常血管新生を含むがん増殖と線溶系亢進の関連性、プラスミンの生成に伴うMMPの活性化を介した生体内のがん増殖機構の解析、特にがん組織への骨髄由来細胞浸潤について検証することで、新規プラスミン阻害剤等によるがん増殖抑制効果について評価を行い、線溶系因子シグナルとがん増殖進展機構の関連性を明らかにする。本年度の研究においては、次年度以降の予定であったAOM誘発大腸がんモデルを用いた解析を優先させた。理由として、AOM誘発大腸癌モデルの作成に関しては、AOM投与開始より、12週間から16週間後に各組織の摘出および各種サイトカイン、プロテアーゼ活性の測定の必要があるため、AOMモデルマウスの作成を早い段階で行い、コントロール実験を行っておく必要があると判断したためである。AOMマウスに関しては、他の論文では用いることの少ない近交系マウスC57BL/6J野生型にすることで死亡する事例が多かったが、血便、下痢などの指標を詳細に記録することによって的確に解析することが可能となった。この為、コントロール実験、及びMMP9ノックアウトマウスまで解析を行うことができた部分は十分に評価に値すると思われる。
MMP9のノックアウトマウスまで解析できたが、次年度以降は、PLGノックアウトマウスに同様なAOM実験の行い、線溶系のどの因子が大腸癌がん増殖に関与しているかを明らかにしていく予定である。また、線溶系阻害剤(YO2)やプラスミンより上流においてMMPを制御しているPAI-1を併用することで詳細なデータを抽出することを試みる予定である。それらの解析の後に担がんモデルを用いた線溶系因子シグナル制御とがん増殖進展機構との関連性の解析を行う予定である。
各種近交系、特殊系マウス等の使用を予定しており、従ってこれらのマウス購入費用が必要となる。さらに、マウス投与用の薬剤及び試薬類、細胞培養用サイトカイン及び培地やウシ胎児またはウマ血清等の試薬、フローサイトメトリーによる細胞表面抗原解析用及び病理組織免疫染色用の抗体、サイトカインおよびプロテアーゼの血中濃度測定用のenzyme linked immunosorbent assay (ELISA)キット及びウェスタンブトッディング、mRNA 抽出等の分子生物学的研究試薬は、実験データの再現性、正確性を維持する上でも、同じ実験を数回繰り返す必然性もあり、いずれも不可欠な消耗品である。病理組織作成については、本研究室利用、一部の病理組織標本及びELISA での測定が困難な線維素溶解系因子、サイトカインの血中濃度測定および、フローサイトメトリーについては研究分担者である東京大学医科学研究所(服部浩一准教授のもと)で行う予定である。国内外の学会の研究発表及び参加費用として本研究費用を使用する予定である。
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