研究課題/領域番号 |
24591985
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
逸見 仁道 東邦大学, 医学部, 教授 (90165514)
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研究分担者 |
小池 淳一 東邦大学, 医学部, 講師 (30339155)
有田 通恒 東邦大学, 医学部, 助教 (80307719)
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キーワード | ゲノム不安定性 / 大腸がん / DNAミスマッチ修復遺伝子 / 低酸素 / EMAST |
研究概要 |
ゲノム不安定性の一つであるマイクロサテライト不安定性(MSI)は高頻度のMSI-Hと低いMSI-Lおよびこれらとは異なるスペクトラムを示すEMASTとに分類される。EMAST腫瘍は大腸がんで約6割を占め、予後不良との相関が報告されている。EMASTはDNAミスマッチ修復( MMR)遺伝子の一つであるhMSH3機能低下に起因する。本研究では (1) EMAST腫瘍発生の分子機構の解明、(2) EMAST腫瘍悪性化機構の解明 、(3) 臨床検体を対象に抗体染色法などの簡便検索法の開発 以上の3点を中心に大腸がんの診断や予後判定に有用な因子の発見と検証を行うことを目的とした。 研究の初年度である平成24年度には EMAST腫瘍発生の分子機構の解明を中心に行い、in vitroでのEMAST発生系の確立に成功した。即ち,p53遺伝子変異大腸がん由来細胞株を低酸素下で一定期間培養することにより、EMASTは容易に生じることを突き止めた。そこで本年度は確立に成功したEMAST発生系を用いて、EMAST腫瘍悪性化機構の解明を中心に進めた。即ち、マイクロアレイ解析結果を元に遺伝子の発現変化を調べた。その結果、pathway解析からは一連の解糖系酵素やMAPK pathwayの活性化など、いわゆるWarburg effectとして知られている経路の活性化が顕著であったが、新たな活性化経路は見いだせなかった。そこで、標的分子検索を行うために、大腸がん由来細胞株をEMAST発生条件で培養し、標的分子が確定している阻害剤の細胞増殖阻害作用を調べた。その結果、活性化しているMAPK pathway上の分子標的薬は効果が減弱した。一方、Caイオン流入阻害剤や他のイオン膜輸送阻害剤は劇的な効果が見られた。また、細胞骨格に関係する分子の標的薬は効果が減弱することも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
EMASTの原因遺伝子であるhMSH3の腫瘍塊における発現はまだらであり、hMSH3陽性細胞と陰性細胞が混在し、更に、陽性細胞でも発現 程度が異なることから、EMAST発生モデルの確立は難しいと考えられていたので、本研究により試験管内モデルの確立に成功した意義は大きい。見いだされた条件を利用して計画通り、マイクロアレイを用いた網羅的解析を行った。 しかしながら、現在にところ、大半の解析結果は従来知られている知見を確認したに過ぎず、特徴的な新たな経路は見いだせなかった。そこで若干の計画変更を行い、網羅的解析を横目で見つつ、標的分子の明らかな阻害剤を利用して、EMAST発生培養条件での細胞増殖への効果を調べ、若干の新しい知見を得た。しかしながら、分子レベルでのサポートデータの獲得には至っておらず、当初の目的にも掲げてあった標的分子の同定には至っていない。以上の点を考慮して達成度を自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 網羅的解析ならびに分子標的阻害剤を用いた研究から明らかになった標的分子群の増殖および生存への関与および役割を明らかにする。 2.病理切片を用いた悪性度判定法の確立を行う。これまでに得られた遺伝子発現情報を基に膜タンパクに注目し、臨床検体を対象とした検索を行う。様々なステージ及び肝転移した大腸原発の腫瘍のパラフィン封埋 切片を対象に上記遺伝子産物を染色し、悪性度との相関を検討する。
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