研究課題/領域番号 |
24592004
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池上 徹 九州大学, 大学病院, 助教 (80432938)
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研究分担者 |
調 憲 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70264025)
吉住 朋晴 九州大学, 大学病院, 講師 (80363373)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 移植・再生医療 |
研究概要 |
肝細胞癌に対して生体肝移植を施行した症例で検討を行った。まずNLR(好中球リンパ球比)のcut-offを1-6まで変化させ、無再発生存に関するp-valueを計算したところ、NLR>4がp<0.0001で最も肝癌再発に強く影響を与えていた(5年生存率、30.3% vs. 89.0%)。ミラノ基準内(n=94)あるいは基準外(n=64)のいずれに於いても無再発生存率はNLR>4にて有意差(それぞれp=0.0008およびp=0.0002)を認めた。また、ミラノ基準内かつNLR<4では5年生存率100%、ミラノ基準外かつNLR>4では5年生存率0%であった。メカニズムの解析のため、生組織標本を用いた検討を行った。VEGF(血管内皮増殖因子)およびIL8に関しては腫瘍および腫瘍周囲にてそれらmRNAおよび蛋白の発現に差を認めなかった。すなわちプレリミナリーな結果(癌部VEGFのmRNAの発現が高い)とは異なる結果であった。そこでIL-17に注目し、検討を行った。NLR>4の症例では、腫瘍周囲のIL-17の発現および血清中IL17の濃度が有意に高値であった。よって腫瘍周囲の環境がIL17の発現を介して腫瘍の進展に関わっている事が明らかとなった。そしてCD163陽性腫瘍関連マクロファージに注目した。現在のところ、NLR>4の症例では腫瘍周囲のCD163陽性細胞がNLR<4の症例より多い傾向にあった。すなわち、高NLRであることは腫瘍周囲の炎症細胞環境、特に腫瘍関連マクロファージとIL-17の影響による腫瘍細胞の活性化を意味するが、VEGFなどの関与の可能性が低いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は(1)肝癌細胞と腫瘍浸潤好中球が分泌する血管増殖因子(VEGF)の関与に関する検討、(2)Th17リンパ球および腫瘍関連マクロファージを介した細胞増殖シグナルの関与に関する検討を行う予定であった。(1)まず血管増殖因子(VEGF)の関与に関しては、腫瘍内および腫瘍周囲のVEGFとIL-8の免疫組織染色および定量的RT-PCRを行った。その結果、蛋白およびRNAレベルいずれに於いても血管増殖関連因子(VEGF、IL-8)はNLRの高低に関わっていなかった。よって腫瘍増生因子や血管増生因子は白血球分科画の構成比率と腫瘍の進展再発の間をつなぐものではないと判断された。(2)次に、Th17リンパ球および腫瘍関連マクロファージを介した細胞増殖シグナルの関与に関する検討を行った。我々はIL-17に注目した。IL-17はいわゆるTh17細胞とよわれるHelper T細胞から産生されるサイトカインである。まず免疫組織染色を行ったところ、Il17は腫瘍内ではNLRの高低で差はなかったが、腫瘍周辺のIL17はNLR高値群にて有意に高発現していた。さらに血清中のIL-17もNLR高値群にて有意に高値であった。よって腫瘍周囲の環境がIL17の発現を介して腫瘍の進展に関わっている事が明らかとなった。また、PD-1の発現に関しては腫瘍内部および腫瘍周囲に於いてNLRとPD-1およびPD-1 ligandの発現で有意差は認めなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、肝癌に対する肝移植および肝切除症例を対象とした「腫瘍関連マクロファージ(TAM)を介した細胞増殖シグナルの関与に関する検討」を中心に行う予定である。我々は、切除肝癌組織を用いてTAMおよび STAT3のリン酸化を介したシグナル伝達が、腫瘍の進展と血管新生に重要であることを示してきた。p-STAT3陽性肝癌は陰性のものと比べて有意に予後不良であり、またCD68陽性マクロファージが、p-STAT3陽性細胞のごく近傍に多数認められることが二重免疫組織染色にて証明された。高/低NLR各症例に於いて、癌部および傍癌部のCD68、CD163免疫組織染色によるTAMの同定おおび腫瘍でのpSTAT3、IL-6、IL-8の免疫組織染色およびRT-PCRを用いた解析を行う。さらに、再発転移した腫瘍巣(約1/3の症例で外科的切除を行っている)における肝癌細胞のSTAT3の活性化に関して検討を行う(Western blottingおよびRT-PCR)と共に、TAMとその関連サイトカインの発現に関しても原発と同様であったか、それともその反応に変化がみられるのかに関して検討を行う予定である。研究環境に関しては当施設では、肝移植時の摘出肝臓(肝細胞癌を有する)、ドナー肝組織、末梢血、移植後レシピエント肝生検組織など、周術期を通じて集められた臨床検体が保存されている。また、セルソーター、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、Real-time PCR、ELISA等の機器は現有設備であり、一部は学内共同使用が可能な状況であり、現状通りの研究計画を行えば上記目標は概ね達成されるものと予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の今後の研究は、大きくわけて1)免疫組織染色、2)遺伝子検査に分けられる。免疫組織染色に関しては、組織のパラフィン化切片あるいは凍結組織切片を作成し、CD63、CD163、STAT-3、IL-6、IL-8の単純あるいは二重免疫組織染色を約100例の症例を用いて行う。発光に関しては単純免疫組織染色に関してはDABで、二重に関しては蛍光にて行う予定である。またSTAT3系快晴の結果としてのアポトーシス検出をTunnel染色にて検出する。遺伝子検査に関してはJAK-STAT経路の活性化を分子生物学的に解析するために、IL-6、IL-8などのligandおよびエフェクター分子であるJanus kinaseおよびリン酸化STAT3の活性化、二量体形成および核内移行に関してRT-PCR、ウェスタンブロットおよびゲルシフトアッセイを施行する予定としている。1)2)ともに抗体購入、プライマー類の設計と作成、試薬類を含む検出系消耗品の予算として研究費を使用する予定である。(蛍光)顕微鏡、Real-time PCR、ELISA等の機器は現有設備である。
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