研究課題/領域番号 |
24592004
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池上 徹 九州大学, 大学病院, 助教 (80432938)
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研究分担者 |
調 憲 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70264025)
吉住 朋晴 九州大学, 大学病院, 講師 (80363373)
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キーワード | 肝移植 / 肝癌 / 好中球リンパ球比 |
研究概要 |
肝細胞癌に対して生体肝移植を施行した症例で検討を行った。NLR(好中球リンパ球比)NLR>4がp<0.0001で最も肝癌再発に強く影響を与えていた。ミラノ基準内(n=94)あるいは基準外(n=64)のいずれに於いても無再発生存率はNLR>4にて有意差(それぞれp=0.0008およびp=0.0002)を認めた。また、ミラノ基準内かつNLR<4では5年生存率100%、ミラノ基準外かつNLR>4では5年生存率0%であった。さらに、今回は肝移植後肝癌再発における症例で検討を行った。多変量解析では、好中球/リンパ球比(NLR)>4(p=0.03)、組織学的腫瘍径>5cm(p=0.03)、最終治療から肝移植までの期間<3ヶ月(p=0.01)が再発危険因子であった。それら再発症例に於いて、再発までおよび再発から死亡までの平均期間はそれぞれ3.7年および1.7で年であった。一方、再発後の生存率は、男性(p<0.01)、再発時AFP<300mAU/ml(p<0.01)、好中球/リンパ球比(NLR)<4 (p<0.01)、再発病変に対する外科的切除可能である(p<0.01)症例にて於いて有意に良好であった。NLR>4の症例では、腫瘍周囲のIL-17の発現および血清中IL17の濃度が有意に高値であった。よって腫瘍周囲の環境がIL17の発現を介して腫瘍の進展に関わっている事が明らかとなった。NLR>4の症例では腫瘍周囲のCD163陽性細胞がNLR<4の症例より多い傾向にあった。すなわち、高NLRであることは腫瘍周囲の炎症細胞環境、特に腫瘍関連マクロファージとIL-17の影響による腫瘍細胞の活性化を意味するが、VEGFなどの関与の可能性が低いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度までに(1)Th17リンパ球および腫瘍関連マクロファージを介した細胞増殖シグナルの関与に関する検討、(2)肝癌細胞と腫瘍浸潤好中球が分泌する血管増殖因子(VEGF)の関与に関する検討を行う予定であった。(1)Th17リンパ球および腫瘍関連マクロファージを介した細胞増殖シグナルの関与に関する検討を行った。我々はIL-17に注目した。IL-17はいわゆるTh17細胞とよわれるHelper T細胞から産生されるサイトカインである。まず免疫組織染色を行ったところ、Il17は腫瘍内ではNLRの高低で差はなかったが、腫瘍周辺のIL17はNLR高値群にて有意に高発現していた。さらに血清中のIL-17もNLR高値群にて有意に高値であった。よって腫瘍周囲の環境がIL17の発現を介して腫瘍の進展に関わっている事が明らかとなった。また、PD-1の発現に関しては腫瘍内部および腫瘍周囲に於いてNLRとPD-1およびPD-1 ligandの発現で有意差は認めなかった。(2)血管増殖因子(VEGF)の関与に関しては、腫瘍内および腫瘍周囲のVEGFとIL-8の免疫組織染色および定量的RT-PCRを行った。その結果、蛋白およびRNAレベルいずれに於いても血管増殖関連因子(VEGF、IL-8)はNLRの高低に関わっていなかった。よって腫瘍増生因子や血管増生因子は白血球分科画の構成比率と腫瘍の進展再発の間をつなぐものではないと判断された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、肝癌に対する肝移植および肝切除症例を対象とした「腫瘍関連マクロファージ(TAM)を介した細胞増殖シグナルの関与に関する検討」を中心に行う予定である。我々は、切除肝癌組織を用いてTAMおよび STAT3のリン酸化を介したシグナル伝達が、腫瘍の進展と血管新生に重要であることを示してきた。p-STAT3陽性肝癌は陰性のものと比べて有意に予後不良であり、またCD68陽性マクロファージが、p-STAT3陽性細胞のごく近傍に多数認められることが二重免疫組織染色にて証明された。高/低NLR各症例に於いて、癌部および傍癌部のCD68、CD163免疫組織染色によるTAMの同定おおび腫瘍でのpSTAT3、IL-6、IL-8の免疫組織染色およびRT-PCRを用いた解析を行う。さらに、再発転移した腫瘍巣(約1/3の症例で外科的切除を行っている)における肝癌細胞のSTAT3の活性化に関して検討を行う(Western blottingおよびRT-PCR)と共に、TAMとその関連サイトカインの発現に関しても原発と同様であったか、それともその反応に変化がみられるのかに関して検討を行う予定である。研究環境に関しては当施設では、肝移植時の摘出肝臓(肝細胞癌を有する)、ドナー肝組織、末梢血、移植後レシピエント肝生検組織など、周術期を通じて集められた臨床検体が保存されている。また、セルソーター、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、Real-time PCR、ELISA等の機器は現有設備であり、一部は学内共同使用が可能な状況であり、現状通りの研究計画を行えば上記目標は概ね達成されるものと予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していたSTAT3の活性化およびTMAとその関連サイトカインの発現に関する研究を当該年度では行えなかった為 当初予定していたSTAT3の活性化およびTMAとその関連サイトカインの発現に関する研究を次年度行う為に必要な試薬を次年度繰越額242,672円で購入する
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