研究課題/領域番号 |
24592020
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉富 秀幸 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (60375631)
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研究分担者 |
吉留 博之 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10312935)
宮崎 勝 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70166156)
中島 正之 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (80466705)
大塚 将之 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90334185)
鈴木 大亮 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (90422229)
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キーワード | 膵癌 / 癌幹細胞 / 癌間質 / Sox9 / Tenascin C / Fibronectin |
研究概要 |
本研究の目的は膵癌悪性化の分子機構を明らかにし、新規治療法を開発することにある。本研究では癌と周囲間質との相互作用に着目し、これが癌悪性の本質であるとされる癌幹細胞へどのような関連があるかの解明を目指した。 これまでに膵の組織幹細胞のマーカーであるSox9の癌細胞における発現の強弱が膵癌の予後と相関することを明らかにしてきた。多変量解析の結果でも癌細胞のSox9発現の強弱は独立した予後因子であった。その中でも術後に5-FU prodrugであるS-1を使用した症例ではその予後の差が明らかに大きく、本因子の発現が5-FUへの耐性に関わっていることが示された。 次に、周囲間質と癌細胞との相互作用について検討した。乳癌で癌幹細胞nicheに発現するとされる細胞外マトリックスの一つのTenascinC(TNC)の膵癌における発現を検討したところ、TNCが癌細胞を取り巻くように発現しており、その発現が強い症例は予後不良であった。またTNCと相互作用を持つFibronectin(FN)の発現も検討したところ、TNCとFNは共通の部位に発現しており、両者が発現している症例はより予後が不良であった。加えて、このような症例は特に血行性転移を術後起こしている症例が多かった。 そこで、膵癌細胞株を利用し、TNCでコートした培養皿におけるこれらの細胞の変化を検討した。すると、膵癌細胞株の遊走能、浸潤能が高くなることが示され、このような条件下では膵癌細胞がN-cadherin, Vimentin, Snailといった上皮間葉系移行(EMT)に関わる蛋白質の発現が上昇していることが示された。 以上より、癌間質のTNCが膵癌細胞のEMTを誘導し、癌の悪性化をきたしていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究概要に記したとおり、本年度は特に細胞実験を用いたin vitroの解析に力点を置いた。これによって、間質のマトリックスであるTNCが癌の浸潤能、遊走能を引き出し、その結果として遠隔転移が増加する可能性を証明することができた。ただし、現在まではこのような癌間質が癌細胞の中の幹細胞と言われる一群に対してどのような効果を持っているかが十分には証明できておらず、その点が今後の研究の課題になってくると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は間質と癌細胞の相互作用が癌幹細胞に与える影響について検討する予定である。TNCの培養により、癌細胞に幹細胞マーカーと考えられるSox9, Sox2, Oct3/4と言った因子の発現、活性化がおきないかを注目していきたい。また、Sox9発現細胞の薬剤耐性機構についても詳細に検討していく予定である。具体的にはSox9のover expressionにより、どのような薬剤に対して感受性が変化するか、また、それによる幹細胞機能の変化、Sphere形成能の変化などについて検討していきたい。 このような研究を通して、今後、癌間質と癌細胞、特に癌幹細胞との相互作用の分子機構の解明を目指し、その結果を新規治療法開発に応用していきたいと考えている。
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