研究実績の概要 |
[背景]膵臓癌は依然として極めて予後不良の癌腫である.タンパク質をコードする全遺伝子(20,661遺伝子)解析の結果,高頻度で変異が検出される遺伝子は,膵臓癌ではKRAS,p16,p53とSMAD4の4つのみであった(Science, 321:1801, 2008).このうち,ほぼ100%で変異がみられるKRASを除く3遺伝子の異常とその臨床的意義について検討した. [方法]2000年以降に手術を施行された106例の通常型膵管癌を対象とし,上記の3遺伝子を既報に従って免疫組織化学染色で評価し,臨床・病理学的な因子や再発パターン(局所再発 vs 遠隔転移),生命予後との関連性を検討した. [結果]p16,p53,Smad4は免疫染色でそれぞれ70%,81%,60%に異常を認めた.p16の異常はリンパ管侵襲や広範囲の癌の進展、遠隔転移の有無と有意に相関を認めた.一方,p53は腫瘍分化度や術後の局所再発の有無と有意に相関していた.Smad4の異常は腫瘍径やリンパ節転移と有意な相関を認めた.術後5年生存が得られた6症例の全例で,Smad4はintactであった.単変量解析では,リンパ節転移,T因子(T1/T2 vs T3),リンパ管侵襲,p16とSmad4の異常が術後の全生存期間を規定する因子であった.多変量解析の結果,Smad4が独立した全生存期間を規定する因子であった.無再発生存期間に対しても,Smad4が独立した予後規定因子であった.これら3遺伝子の異常の総数は,さらに術後の生命予後を強く反映していた(P < 0.0001) [結論]主要3遺伝子の異常とその蓄積は,腫瘍の生物学的悪性度を強く反映していた. 3遺伝子の異常の総数は術後の生存期間を予知可能で,術前の生検時のこれらの遺伝子の免疫染色による評価は,診断時の治療方針の決定にきわめて有益である.
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