研究実績の概要 |
我々はこれまで膵がん治療の目的で、樹状細胞(dendritic cells: DCs)や癌ペプチドワクチンを用いた臨床研究を行ってきた。DC療法は、切除可能な膵がん症例を対象とした術前腫瘍内局注療法を、癌ペプチドワクチン療法は、切除不能な進行・再発癌症例を対象として実施した。いずれの研究において免疫応答が観察されたが、その免疫反応の多寡が治療成績と必ずしも相関するものではなかった。担癌患者のMyeloid-derived suppressor cells(MDSCs)に着目し、免疫学的環境を観察することを目的とした。 ①末梢血単核球分画からのMDSCsの分離:PBMCよりCD11b+, CD14-, CD33+の細胞を採取し、MDSCとした。膵癌患者の末梢血MDSCが健常人と比較して有意な増加していることを確認した。また、肝癌、胆管癌、十二指腸乳頭部癌及び転移性肝癌の患者においても同様であること、手術により病巣を摘出することでMDSCsが減少することを確認した。②担癌患者(膵癌、肝癌、胆管癌、乳頭部癌)の血清s-IL2Rが、アルブミン、トランスフェリン、IFN-rやリンパ球幼若化試験の結果とも逆相関を示し、担癌状態は免疫抑制状態にあること、治療介入により免疫抑制状態に変化を与えうる可能性が確認した。③術前の末梢血MDSC数の多寡が進行消化器癌における全生存率に影響を及ぼし、予後予測マーカーとなりうることを確認した。 本研究により担癌患者では免疫抑制環境にあること、生命予後に関与する可能性があること、また、治療の介入により改善しうることが明かとなり、今後のがん治療に有益な情報が得られた。
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