大動脈外科手術に伴う脊髄虚血障害を防止するため、経頭蓋脳刺激による筋電図である運動誘発電位motor evoked potential(MEP)のモニタリングが広く用いられているが、安定性が低いため偽陽性率が高く、予後との相関も乏しい。他のモニタリング法には脊髄誘発電位evoked spinal cord potential(ESCP)や体性感覚誘発電位somatosensory evoked potential(SSEP)があるが、前者は特異性は高いものの脊髄虚血に対する反応が遅く、かつ硬膜外電極を要するためヘパリン使用環境下での使用に難点があり、後者は感覚神経のモニタリングであるため、反応も遅く、特異性も低い。本研究は、食道電極を用いて脊髄を電気刺激することにより、硬膜外電極を用いずに感受性・特異性共に高いモニタリング法を確立することを目的として実施した。 まず、自作した刺激電極を用いて実現可能性と安全性を確認し、経頭蓋刺激に比して麻酔薬への耐性には差を認めないものの、電位の安定性が優れることを発見した。本成果は国内外の学会で発表し、欧州心臓胸部外科学会でawardを取得し、発表論文は当該年度のeditor' choiceに選ばれるなど、高い評価を得た。 次いで、下行大動脈バルーン閉塞モデルを用いて脊髄虚血に対する反応性を検討し、経食道刺激は経頭蓋刺激に比して、脊髄虚血に対する応答が早いこと、予後との相関が良好であることを見出した。本成果は、米国胸部外科学会で発表し、発表論文にはeditorial commentをいただくなど高い評価を得た。 最終年度には、最終実験と米国胸部外科学会での発表、ならびに論文化を実施した。
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