研究課題/領域番号 |
24592090
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新谷 康 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90572983)
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研究分担者 |
奥村 明之進 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40252647)
南 正人 大阪大学, 医学部附属病院, 准教授 (10240847)
澤端 章好 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50403184)
井上 匡美 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10379232)
中桐 伴行 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70528710)
川村 知裕 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30528675)
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キーワード | 肺癌治療 / 癌微小環境 / 癌幹細胞 / 上皮間葉移行 |
研究概要 |
癌微小環境を標的とした肺癌治療を考案することを目的として、本研究を計画した。癌細胞の悪性転化・癌幹細胞様形質獲得における線維芽細胞や炎症細胞の役割を明らかにし、そのシグナル伝達経路を制御することで癌細胞の悪性化を抑制できるかを検討する。今回、われわれは肺癌細胞と癌周囲線維芽細胞とのクロストークを解析し、その制御を試みた。 肺癌細胞は線維芽細胞培養上清によりEMTが誘導され、抗癌剤へ耐性となり、幹細胞様形質を獲得した。これらの変化はTGF-βシグナル阻害(受容体特異的キナーゼ阻害剤SB-431542)により抑制された。また肺癌組織由来線維芽細胞は正常肺由来線維芽細胞に比してSMA・FAP発現が高く、より強くEMTを誘導した。動物共移植モデルでは線維芽細胞の存在により腫瘍増大を認め、これらの変化もTGF-β阻害により抑制された。また、線維芽細胞は肺癌細胞と共培養することで活性化し、IL-6を含むサイトカインを産生し互いのTGF-βシグナルを増強した。以上より癌間質におけるサイトカインの過剰産生によりTGF-βシグナルが増強し、癌細胞は生存に有利な環境を形成する可能性がある。臨床検体の解析では、術前治療により腫瘍間質が増加し、活性化した線維芽細胞が間質全体に分布している症例では有意に再発率が高かった。また間質でのTGF-β・IL-6を含むサイトカイン増加と癌細胞のEMTマーカーの上昇に相関を認めた。従って放射線化学療法による腫瘍間質の変化が肺癌細胞のEMT誘導に関与しており、再発を規定する因子になる可能性が示唆された。 癌と間質の相互作用によって誘導されるEMTが、癌の悪性化・生存機構に影響していると考えられた。サイトカインを中心とした癌周囲微小環境を標的とした癌治療は、腫瘍をdormancyの状態に維持するといった新しい癌治療につながる可能性がある。抗サイトカイン療法を確立することで癌微小環境を制御できれば、癌進展を抑制できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EMTシグナルを制御することで肺癌をdormantな状態に維持し、癌幹細胞様形質獲得を抑制することができれば、外科治療や放射線治療といった局所治療だけでなく、全身治療による抗癌剤に加える有用な癌治療法になると考えられる。したがって、達成目標として、 次の二点を挙げた#1 癌微小環境を調節するEMTの関連シグナル分子を明らかにし、癌細胞のEMTを制御する方法を考案すること。#2 EMTと癌幹細様形質転換についての関連を明らかにし、癌の治療抵抗性についての分子機構を明らかにすること。 #1に関連して、IL-6およびTGF-βシグナルが癌細胞と癌関連線維芽細胞のクロストークで重要であることが判明し、さらにTGF-β receptor阻害剤であるSB431542やIL-6 receptor中和抗体により、このクロストークを抑制することを示した。動物モデルを用いて、TGF-βやIL-6を制御するとされる薬剤や抗体を応用し、抗癌剤耐性化を抑制することを示した。本成果はすでに平成25年度に日本外科学会(シンポジウム)や世界肺癌学会総会(口演)、日本癌学会(ポスター)で報告した。さらに、論文として英文雑誌Lung Cancerに掲載された。#2に関して、肺癌細胞A549・NCI-H358と肺癌組織・正常肺由来線維芽細胞を用いて、共培養または動物共移植モデルでEMT制御機構を解析した。結果、癌細胞が癌幹細胞様形質を獲得する過程で癌間質細胞が重要な役割を担っていることを示した。癌細胞と癌間質nicheの相互作用を対象とした癌治療は治療耐性化を抑制し、新しい癌治療につながる可能性がある。本研究結果は、The Annals of Thoracic Surgeryへ論文投稿し、掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
癌関連線維芽細胞と肺癌細胞間のクロストークによって、互いに刺激し合い癌細胞の悪性度が増すという悪循環に陥る可能性がある。今回の実験から、このようなTGF-βやIL-6シグナルを抑制することで抗腫瘍効果を発揮できる可能性が示唆された。今後、引き続き、癌関連線維芽細胞と肺癌細胞間のクロストークによりどのように癌周囲微小環境を形成していくのかを解析し、これらの微小環境を標的とした肺癌治療の開発を行っていきたい。したがって、 #1 動物モデルを用いて、TGF-βやIL-6シグナルが腫瘍間質に及ぼす影響の解析 #2 ヒト切除標本での癌微小環境の変化と予後の検証 を行っていく。実際の臨床検体で解明された分子発現を免疫組織学的に測定し、より複雑な生体内での癌細胞と微小環境の相互作用の意義を検証し、また予後因子としての役割に言及する。 さらに、術前にInformed Consentを得られた症例の肺癌切除標本から肺癌細胞、間質細胞を採取し、初代培養によって、さまざまな背景をもつ症例の間質細胞を実験材料として得る。間質細胞を不死化して研究に用いることを院内で承認されており(当院臨床研究委員会へ「呼吸器外科手術で得られた新鮮切除標本を用いた不死化細胞株樹立」)、教室で蓄積する。また、癌細胞の初代培養は継代が困難であるため、我々は、癌組織細胞塊培養法を用いて、原発巣と近似した腫瘍をマウスで再形成することから、微小環境の再構築にも適しており、生体内で癌微小環境を症例ごとに再現し、症例に応じた微小環境を標的とした治療法を検討・開発する。
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