研究課題/領域番号 |
24592097
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
佐々木 秀文 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00336695)
|
研究分担者 |
矢野 智紀 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315883)
奥田 勝裕 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50529170)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | RET転座 / 肺癌 / 腺癌 / FISH / 免疫染色 |
研究概要 |
2011年秋にDana Farber Cancer Instituteとの共同研究で見出した肺癌における新規ドライバー変異である、KIF5B/RET転座に関する研究を進めた(Lipson D et al. 2012 Nature Medicine)。細胞株を用いた実験系ではRET転座遺伝子を導入した細胞株ではRETを阻害するvandetanib, sorafenib, sunitinibに感受性が高いことが示された。肺癌におけるKIF5B RET遺伝子転座変異は、日本国内の他グループ(Kohno T et al, Takeuchu K et al. 2012 Nature Medicine)からも報告され、動物も用いた系でもvandetanibの有用性が明らかとなり肺癌患者に対する医師主導型臨床試験も国内外で始まろうとしているこの変異は肺癌の中でも腺癌、特に非喫煙者、女性に認められた。扁平上皮癌や、他臓器癌、乳癌や大腸癌には認めなかった。RET遺伝子mRNA発現の検索のためreal time PCR(LightCycler)を用いた系を確立して定量を行った。この結果RET転座を引き起こしている肺癌ではそのほかの肺癌に比べて有意にRETmRNAレベルが高いことが分かった。肺腺癌ではEML4-ALKが同定され、ALK阻害剤が有用であるために注目されている。ALK転座の同定は現在、FISH(fluorescence in situ hubridization)や特異的抗体を用いた免疫染色によるスクリーニングが行われているが、RETについては有用な免疫染色法が確立されておらず新たな抗体検索が肝要である.このことから簡便にRETタンパク発現が同定できないかどうか、RETのC末端を特異的に認識する抗体数種類を手に入れ比較検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺癌におけるKIF5BRET転座を同定して、その簡便な検出方法の確立を試みた。当院での検体では、3例の陽性検体を見つけた。本来ならば免疫組織学的検討によりスクリーニング可能ならばベストであった。しかしながら、検討した数種類のC末端を特異的に認識するとされる抗体では、満足のいく結果が得られなかった。すなわち転座陰性例においても免疫染色陽性となる検体がかなり多くの頻度で見受けられた。このためFISH法による同定を施行した。プローブの改良を行い、比較的良好な結果が得られたため論文を作成して投稿ができた。今後はさらに抗体による免疫組織学的検討を重ねてより簡便にRET転座の同定が可能か検討を行っていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
KIF5B RETの変異の頻度はアジア人(日本人)が1-2%、アメリカ人は1%以下程度とされるため、日本人検体を用いた実験系ではより大量サンプルを迅速に検索することによりデーターを得ることが必要と思われる。われわれは日本人肺癌(単一施設)におけるKIF5BRET遺伝子変異の論文報告を行っている数少ないグループの一つである。RET遺伝子転座や遺伝子多型の同定には、簡便で、迅速なハイブリダイゼーション Probeを用いたgenotypingを施行し、大量検体の同時アッセイや、同時に多種類の変異を同定する試みを行う。このことで、少量検体しか得られないような、気管支生検検体からも同定が可能になると考えられる。大量検体からのスクリーニングにより、関連因子との相関の同定がよりなされていく可能性がある。実際に臨床で得られるのは、CT生検や気管支鏡下生検などの微小検体や、胸水検体であり、これらからの遺伝子変異検索が可能になれば有用と考えられる 最近膵臓癌でも報告がなされている、RET遺伝子のG691S遺伝子多型についても検討を加えていく。Taq Man probeを用いて、PCPベースの方法で検出し、肺癌以外の他疾患を含め多くの症例を検討して臨床病理学的背景との相関を明らかにする。一方、最近確立を目指しているRET遺伝子転座同定法としてFISHおよびCISH(chromogenic in situ hybridization)も比較検討し、分子標的薬剤の使用の可能性について探求を進める。RET阻害剤の長期使用による耐性二次的変異が同定されれば、その検出法にTaq Man assay法の応用をすすめる。また、Dana Farberグループとの共同研究からみつかったNTRK1遺伝子変異についても機能や、機序の解明を目指していく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
非小細胞肺癌患者組織におけるRET遺伝子のsomatic mutation(転座)やpolymorphismをシークエンスまたは我々が確立したTaqManやLightCycler(Sasaki et al.Clin Cancer Res 2005)等real-timePCRの系でconfirmし検索し、これらが臨床病理学的因子や他の分子発現とどう結びついているかを検討する。臨床検体(外科切除)より、購入するキットを用いてRNAを抽出する。RT-PCR assayを行いKIF5B RETについてはhotspotと言われるexon15や22とRETexon12との融合についてsequencerを用いて変異検索を行う。DNAの抽出試薬やPCRを行うための試薬が必要となる。シーケンスは可能な限り外注で解析を依頼するため、その費用が必要となる。TaqManプローブの系を確立すべく、プローブやリアルタイムPCRの周辺機器の購入を行う。またリアルタイムPCR機器の定期メインテナンス(1台につき30万円弱、可能ならば2台について施行する)も行う予定である。FISH法の検出のため顕微鏡が必要であるが、現在研究室にある顕微鏡のコンピューターへの取り込みのためのソフトの改良やメインテナンスに研究費を要する。
|