研究実績の概要 |
今回の実験では、近交系Lewisラットの同所性左肺移植モデルを用いて、移植後の急性肺損傷を評価し、グラフト肺血管内皮におけるE-selectin発現をフローサイトメトリーで定量化した。結果、E-selectinの発現は移植後4時間の時点で約20%の血管内皮細胞に認められた。他モデルでの検証と比較したところ、LPS肺炎4時間後に匹敵する発現量と考えられた。血清中可溶性E-selectinを測定したところ、それらは肺損傷と相関を示し、急性肺損傷の血清マーカーとして有用であると考えられた。WT(donor)→WT(recipient), E-sel-KO→WT, WT→E-sel-KO, E-sel-KO→E-sel-KO (WT: wild-type rat, E-sel-KO: E-selectin deficient rat) の4通りの肺移植を実施し、グラフト肺の肺損傷を比較検討した。その結果、E-sel-KOがdonorの肺移植では、肺損傷が有意に軽微であり、donor肺血管内皮におけるE-selectin発現が重要であると考えられた。また、血清中可溶性E-selectinも肺損傷と有意に相関し、グラフト肺の膜型E-selectinから遊離分解により産生されたと考えられた。WT(donor)→WT(recipient)、WT→E-sel-KOの肺移植モデルにおいて、抗E-selectin抗体を投与したところ、肺損傷は有意に抑制された。一方、E-sel-KO→WT、E-sel-KO→E-sel-KOの肺移植モデルでは、肺損傷が抑制されず、前述の結果が支持された。 平成26年度には、血流逆転肺移植モデルを計40匹作成し、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後での組織学的評価を行った。今回、末梢肺を中心にIPFに類似したfibrosisが観察されており、新たなfibrosisモデルが開発されたと言える。急性期E-selectinの発現についても検討したが、通常の肺移植モデルと有意差を認めなかった。また、血流の再逆転手術に伴うfibrosisの改善は得られなかった。
|