研究課題
前年度までの研究において、ラット中大脳動脈閉塞(2時間虚血)モデルで、再開通後の内頚動脈より選択的に冷却生理食塩液を潅流することにより、脳温が30分程度有意に低下し、梗塞体積が1/3に縮小することを明らかにしてきた。今年度は、その治療効果メカニズムを明らかにする目的で、未治療のコントロール群、冷却潅流を行った治療群において、脳微小血管における形態変化(電子顕微鏡での観察)、炎症反応の変化を経時的に検討する実験を行った。その結果、コントロール群では、経時的に微小血管に生じる現象が以下のように捉えられた。再灌流開始後の時間経過で観ていくと、①AQP4の微小血管周囲での一過性発現亢進(2時間)、②アストロサイト終足の膨化とそれに伴う微小血管の圧迫狭窄(2~6時間)、③ICAM-1発現亢進(6~24時間)、④血管透過性亢進(6~24時間)、⑤梗塞の拡大(6~24時間)、⑥好中球浸潤、MMP9発現亢進、ミクログリアの増加という炎症反応の活性化(24時間)を認めた。一方、治療群においては、これらの現象がすべて抑制されることが分かった。今回の検討では、冷却灌流による脳低温効果が30分しか継続しないことより、再灌流早期の低温化のインパクトが治療効果を発揮する上で重要であると考えられた。AQP4の2時間での発現亢進が虚血再灌流傷害の最初の現象であり、これ抑えることがその後に続く反応を抑えている可能性が考えられた。AQP4はアストロサイト終足に高密度に分布し、その機能が水分子の移動に関わることから、アストロサイト終足の膨化とそれに伴う微小血管の圧迫狭窄にAQP4の発現亢進が関わっている可能性は高い。冷却灌流の治療効果がAQP4の発現亢進を有効に抑えることで、最終的には微小血管狭窄によって引き起こされる微小循環障害を抑えている可能性が考えられた。現在、この実験結果をまとめた英語論文を英文雑誌に投稿し、審査の結果を待っている段階である。
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