本研究は,脳組織の「てんかん原性」の発現・獲得過程の段階を明らかにすることを目的とし,てんかんや脳腫瘍手術摘出後の大脳組織標本を生存状態のまま活用することで,まさに「生きた」標本における生理現象を調べ,てんかん原性の解明に迫ろうとする新たな研究手法への取り組みである.新しい蛍光イメージング法を活用して組織の生理学的反応を観察した結果と,その後の固定標本にお ける免疫組織学的検索や病理組織所見との整合性を調べ,てんかん原性を獲得してゆく組織固有の変化を導き出そうと試みた.研究期間中を通して,脳神経外科手術で得られた標本組織に対し当施設で確立した処理・実験方法にて電気刺激に対する脳組織のフラビン蛍光反応観察を行い,信頼性の高いデータを取得・蓄積してきた.実験後の標本で免疫・組織学的検索を追加し,得られたデータのファイリングも行って来た.これらの実験データの整合性の検証を行い,電気刺激によるフラビン蛍光イメージングでの易発火性・易伝播性,抑制系神経細胞を標的とした免疫組織染色所見での神経脱落所見に相関性があることを確認し,またこれらは病理組織診断における病変としての悪性度には相関がないことも示すことができた. 本研究を通して,各組織標本のてんかん原性として確立段階,つまり「非てんかん性」から「高度てんかん性」といった段階の可視化に成功し,てんかん原性は脳の病変そのものとは別の機序で確立されて行く様子も明らかにすることができたと言える.
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