研究課題/領域番号 |
24592135
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
長谷川 雄 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (40599114)
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研究分担者 |
山田 和慶 熊本大学, 医学部附属病院, 教授(Professor) (00398215)
倉津 純一 熊本大学, その他の研究科, 教授 (20145296)
甲斐 豊 熊本大学, 医学部附属病院, 教授 (30322308)
浜崎 禎 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (60433033)
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キーワード | くも膜下出血 |
研究概要 |
ワイヤー血管穿刺法確立後(死亡率50%程度)、ラットを偽手術群、SAH+生食群、SAH+治療群(1mg/kg FTY720)の3群に分け、脳血流、神経所見、脳浮腫、肺浮腫、脾臓への影響を検討した。SAH群で肺浮腫や脾重量は増悪傾向だったが有意差は認めなかった。治療群においては、生食群と比し神経所見や脳浮腫の改善傾向を認めた。また予備実験として、ダイナミックに変化しうる脳梗塞モデルのサンプルを用い、rtPCRにてメッセンジャーレベルでのS1P1の発現を検討したが、著明な上昇は認めなかった。 一方、ヒトSAHの全経過での死亡率は50%を超え、発症後病院到着までにそのうちの12.4%が死亡するとの報告がある。重症SAH超急性期の基礎研究はほとんどなく、上記実験でヒトと同等の死亡率が得られたことから、ラットを用いてSAH超急性期における頭蓋内環境の変化も追加検討した。我々の経験上SAH後ほぼ100%が5分以内に呼吸が停止し、その後心拍が停止し死亡する。そこで偽手術群とSAH群の二群間で、SAH後すぐに血圧、心拍数、脳血流を計測し、SAH後5分で深麻酔下に安楽死させ、脳水分含量にて脳浮腫を、IgG染色にて血液脳関門の破綻や血管原性浮腫を、免疫組織学的にリン酸化AktやERKの染色を行った。手術後の血圧や心拍数はSAH群で有意に低下(二匹は検出可能値以下)、脳血流も有意に低下していた。脳摘出時の脳水分含量は二群間で差は無かったが、IgGの染色性は脳全体でSAH群で高い傾向にあり、特に頭蓋内視交叉や視索では有意に高かった。さらにSAH群にて同部位でのリン酸化AktとERKの発現上昇を認めた。以上より SAH直後から頭蓋内圧上昇に伴う致死的な変化とともに、脳浮腫に先んじて脳内での血液脳関門の破綻や頭蓋内視神経での静脈灌流障害からの軸索浮腫が顕著に生じており、これがテルソン症候群の一病態である可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
モデルは安定して作成できているが、死亡率が高いために、実験の遂行に時間を要している。但し、高い死亡率があったために超急性期の反応に興味をもち、新しい知見(視神経での反応)を得ることができた。臨床でテルソン症候群という、SAH後の硝子体出血による視力低下が有名であるが、硝子体出血以外の中枢側の(頭蓋内視神経の)反応は、今後のテルソン症候群の経過や病態、治療を考える上で、有用な情報になると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はFTY720の効果について検討する。直接作用による抗アポトーシス、間接作用によるリンパ球の脳内浸潤抑制や炎症反応軽減についてアプローチしていく。但し脳梗塞ではS1P1の発現があまり変化しておらず、SAHでも同様の結果が推測されることから、SAHに対するFTY720の効果は、リンパ球の脳内浸潤抑制からのものであることが推測される。 可能であればSAH後の白血球分画を確認し、FTY720のリンパ球に対する影響も採血にて確認する。 難易度が高いSAHモデル作成について、非常に安定的に完成できているが、最大の問題点は死亡率が高いことである。臨床の現場と同様、呼吸管理にてある程度死亡率を低下させることが可能であるため、今後の進展具合では、現在face maskで行っている麻酔管理を、人工呼吸器管理に変更することも考慮する必要があるかもしれない。
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