研究課題/領域番号 |
24592160
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
香川 尚己 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50444542)
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研究分担者 |
保仙 直毅 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10456923)
橋本 直哉 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90315945)
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キーワード | 腫瘍幹細胞 / 神経膠腫 / 腫瘍内免疫 / WT1 / ALCAM |
研究概要 |
我々は、悪性神経膠腫内に存在する腫瘍幹細胞成分を濃縮し得る細胞表面抗原としてCD166/ALCAM(以下CD166)という分子を見出した。基礎的研究により、ALCAMのsoluble formの発現が腫瘍浸潤に影響していることが明らかとなった。 初発神経膠芽腫におけるCD166発現と腫瘍発生母地との関係、また再発や予後との関係について検討した。IDH1変異のないテント上の神経膠芽腫(以下GBM)65症例(年齢:10-83歳、平均57歳)を対象として、免疫組織化学法によるALCAM発現とMRIによる腫瘍発生母地の予後との相関について統計学的手法を用いて検討した。初発時MRI所見を造影領域と脳室壁(V)および大脳皮質(C)との関係を基に分類したたところ、脳室近傍に発生した腫瘍(Group1、2)では、CD166の発現量が多かった(p<0.01)。また、再発との関係では、再発パターンとCD166との関係では、遠隔再発を来すタイプは他のタイプと比較してCD166を高発現している傾向があった(p<0.05)。CD166陽性細胞数と予後との関係では、ALCAM高発現群の方が予後不良であった(PFS: p<0.01, OS: p<0.05)。 また、最近の基礎的な研究では、CD166はVEGFなどとは関係なくある種のサイトカインを介して神経膠腫内での血管新生にも関与することを報告してきた。 また我々はWT1ペプチドワクチン療法という免疫賦活を利用した治療を行ってきたが、今後は、ALCAMを発現する細胞が腫瘍内免疫に関わる役割を明らかにし、ALCAMがWT1ペプチドワクチン療法での治療反応性に与える影響について検証する。さらに、今回、ALCAMを発現する腫瘍幹細胞に対する分子標的治療の可能性とWT1ペプチドワクチン療法併用の効果について検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床検体の解析は順調に行われている。臨床成績(progression-free survivalやoverall survival、放射線・化学療法感受性や免疫療法感受性など)や病理組織学的特徴についてデータ化し、相関について統計学的手法を用いて検討が進んでいる。ALCAMは神経膠腫においてWHO gradingが上がると発現量が増加し、神経膠芽腫では、ALCAMの発現量が予後に相関することを報告した。現在、その他の神経幹細胞マーカーとの相関について解析が進んでいる。 基礎的研究については、ALCAM knock downの細胞及びsALCAMの強制発現株を作成しており、そのmouse xenograft modelは実験に使用できる状態である。primary cultureより得られた悪性神経膠腫細胞を、FACSにてCD133とCD166を用い分離培養し、共陽性細胞分画を胎児免疫不全マウスの脳内に移植する方法は確立されている。xenograft model内での腫瘍形成能や浸潤能を病理組織学的に解析することが可能である。 さらに、WT1タンパク発現を確認したGL261マウスグリオーマ細胞株を移植したマウス脳腫瘍モデルを作成中であり、皮下投与に関しては成功している。
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今後の研究の推進方策 |
臨床検体に関しては、ALCAM発現量と腫瘍発生部位、再発形式に関係している可能性について着眼しデータの解析をさらに進める。さらに、後方視的に神経膠芽腫の遺伝子解析を行いTGCAの遺伝学的なサブタイプ分類(proneural, neural, classic, mesenchymal)分類に従い、ALCAM発現が多い神経膠芽腫の特徴を明らかにする。 次に、当院で行ったWT1ペプチドワクチン療法患者でのリンパ球浸潤の変化に関する解析を行っているが、加えて腫瘍内でのWT1およびALCAMの発現量の関連性、さらに脳腫瘍組織内での浸潤リンパ球サブセットについて解析する。 また、ALCAMが神経膠芽腫では血管新生に関与してしていることは我々の研究にて明らかになってきているが、予後不良に働く因子についてさらに解析する。細胞増殖に関わるシグナル伝達経路、薬剤耐性に関与する分子、細胞接着・浸潤に関わる分子をRT-PCRにより解析する。また、炎症反応に関与するシグナル経路、サイトカイン・ケモカインに関してもRT-PCRにて解析する。 最終的に、WT1タンパク発現を確認したGL261マウス(57BL/6マウス)グリオーマ細胞株を移植したマウス脳腫瘍モデルを用いて、WT1ペプチドワクチン療法治療群と無治療群の組織を免疫組織学的に解析し、免疫担当細胞の浸潤や腫瘍抑制効果、WT1の発現、ALCAM陽性細胞の割合などの変化を解析する。さらに、抗癌剤治療併用群、抗ALCAM抗体、抗sALCAM抗体(ハイブリドーマにて作成)、TNFα阻害薬、COX2阻害薬、抗VEGFモノクロナール抗体(Bevacizumab)、integrinαVβ3標的治療薬(Cilengitide)投与による影響についても観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初代培養を得るための新規神経膠芽腫の症例数が従来の目標より少ないことと、WT1ペプチドワクチン療法症例が諸事情により従来の目標より少なかったため。 前述のように、遺伝子解析費用、動物実験費用などに使用する。
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