研究課題/領域番号 |
24592164
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
池田 栄二 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30232177)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 病理学 / グリオーマ / 腫瘍幹細胞 / 低酸素 |
研究概要 |
グリオーマ組織内には、予後不良の原因となる高い腫瘍組織再構築能を有する階層上位の腫瘍幹細胞が潜んでおり、それらの幹細胞の排除が患者の予後改善には必須である。しかし、それらを特定する有用なマーカーは確立されていない。これまで我々は、骨髄組織の再構築機構の解析を通じ、高い組織再構築能を有する階層上位幹細胞が、HIF-1αを発現しG0期にあることを見出した。本研究では、グリオーマの予後不良の原因となる幹細胞も同様の表現型を示すとの仮説のもと、ヒトグリオーマ手術検体の解析を行い、これまでに下記の成果を得た。 HIF-1α、Sox2(幹細胞マーカー)、リン酸化(serine残基)RNA polymerase IIに対する抗体を用い、三重蛍光抗体染色を行った。RNA polymerase II のserine残基がリン酸化されていない細胞(以下、RNAIISer-P陰性細胞)をG0期細胞とした。グリオーマ〔膠芽腫(grade IV)、星状膠細胞腫(grade II、grade III)〕組織の解析を行った結果、HIF-1αを発現しG0期にある腫瘍幹細胞〔HIF-1α陽性・Sox2陽性・RNAIISer-P陰性細胞〕は、膠芽腫には存在が証明されたが、これまで検索した星状膠細胞腫grade II、grade IIIでは検出されなかった。さらに、HIF-1α陽性・Sox2陽性・RNAIISer-P陰性細胞の膠芽腫組織内分布について、詳細な解析を可能とするため、酵素抗体法による三重染色手法を確立し解析を進めた結果、HIF-1α陽性・Sox2陽性・RNAIISer-P陰性細胞の局在が、従来の血管周囲ニッチよりも、壊死巣に依存する傾向を見出された。また、ヒトグリオーマ幹細胞をマウス脳内に移植して得られた腫瘍についても、HIF-1α陽性・Sox2陽性を示すG0期細胞の存在を示唆する結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、グリオーマの病態を規定する階層上位の腫瘍幹細胞の表現型(マーカー)を特定し、組織切片上にて可視化する系を確立し、グリオーマの真の全摘出を可能とする新たな病理組織診断基準の提唱を目的としている。ヒトグリオーマ手術検体の解析とともに、グリオーマ幹細胞のマウス脳内移植系を用いた解析を駆使し研究を進めるが、平成24年度は、ヒトグリオーマ手術組織検体を用いた解析が主体となった。これまで、【研究実績の概要】に記載した知見を得た。すなわち、HIF-1α陽性・Sox2陽性を示すG0期グリオーマ幹細胞が、これまで検索した症例においては、星状膠細胞腫grade IIとgrade IIIでは検出されず、予後不良な膠芽腫組織内に有意に検出されたこと、膠芽腫の特徴であり予後不良な組織所見として挙げられている壊死に依存して局在していることから、グリオーマの予後を規定する階層上位の幹細胞が可視化された可能性がある。今後は、Sox2以外の幹細胞マーカーを用いた解析、グリオーマ幹細胞移植系を用いた組織再構築能の解析を計画しているが、現時点において、階層上位幹細胞の可視化マーカー候補の一つは得られ、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、平成25年度以降は下記の解析を計画している。 1) 膠芽腫組織内にHIF-1α陽性・Sox2陽性・RNAIISer-P陰性細胞の存在が証明されたが、Sox2以外の幹細胞マーカー(OCT3/4、Nanog、他)を用いた同様の検索を行い、HIF-1α陽性のG0期幹細胞の重要性とともに、その可視化マーカー(可視化手法)を最適化する。 2) 血管周囲ニッチとともに、壊死巣周囲ニッチの重要性が示唆されている。そこで、HIF-1α陽性G0期幹細胞の腫瘍組織内分布について、特に壊死巣との関連に焦点をあて、詳細な定量解析を行う。現時点では、従来の目的であった腫瘍辺縁・周囲組織内にはHIF-1α陽性G0期幹細胞は検出されていないが、引き続き検索を行う。 3) グリオーマ幹細胞のマウス脳内移植系については、未分化な幹細胞を移植したマウスとともに、幹細胞にin vitroで分化誘導刺激を加えた後に移植したマウスを作製した。ともに、脳内には移植細胞の生着が得られたが、浸潤能には差がある傾向がみられる。その浸潤能と、HIF-1α陽性G0期幹細胞の関連につき解析を行う。 4) グリオーマ幹細胞のマウス脳内移植系において、マウス脳内腫瘍から上記1)で絞り込まれたマーカーを用いソーティングし単離した細胞を、マウス脳内に再移植することにより、その組織再構築能を評価する。 5) グリオーマ手術時に切除断端部として提出された組織検体について、上記の検索にて特定される腫瘍幹細胞(腫瘍組織再構築能の高い、階層上位のグリオーマ幹細胞)の存在を検索し、再発などの予後との相関を解析する。これにより、グリオーマ切除後の再発機構とともに、本研究計画にて特定されるグリオーマ幹細胞可視化手法の、日常病理診断業務における有用性・意義を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、上記に記載した通り、グリオーマ幹細胞移植系よりも、ヒトグリオーマ手術検体を用いた解析が中心となった。そのため、培養器具・実験動物に当てる消耗品費支出が、当初の予定よりも少なかったために、次年度使用額として704,060円が生じた。【今後の研究の推進方策】に記載の通り、平成24年度の成果を踏まえた今後の研究計画では、引き続き、幹細胞マーカーをはじめとして、多種類かつ多量の抗体・試薬購入に多くの経費が必要と考えている。そうした状況を考慮し、当該研究費は平成25年度以降に請求する研究費と合わせ、培養器具・実験動物に加えて抗体・試薬購入などの消耗品費として使用する計画である。
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