研究課題/領域番号 |
24592164
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
池田 栄二 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30232177)
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キーワード | 病理学 / グリオーマ / 腫瘍幹細胞 / 低酸素 / 壊死 |
研究概要 |
グリオーマ患者の予後改善には、腫瘍組織内に潜む腫瘍組織再構築能の高い階層上位の腫瘍幹細胞を可視化し排除することが必須と考えられている。我々は、高い骨髄組織再構築能を有する骨髄幹細胞と同様、HIF-1αを発現しG0期にあるグリオーマ幹細胞に高い組織再構築能があるとの仮説のもと研究を遂行している。G0期マーカーとしてRNA polymerase IIのserine残基がリン酸化されていないこと(以下、RNAIISer-P陰性)、幹細胞性格としてSox2陽性を指標とし、平成24年度までに、HIF-1α陽性/Sox2陽性/ RNAIISer-P陰性を示す細胞がヒト膠芽腫(grade IV)手術摘出組織内に存在することを示した。平成25年度は、症例数を増やし検討するとともに、組織形態計測にて詳細な組織内局在の解析を行った。その結果、HIF-1α陽性/Sox2陽性/ RNAIISer-P陰性を示す細胞は、星状膠細胞腫grade IIおよびgrade IIIの組織内には存在が証明されず、膠芽腫(grade IV)組織内の大きな壊死と血管の中間部位のみに局在することが明らかになり、適度な低酸素状態にある微小環境がニッチとなることが示唆された。さらに、幹細胞性格としてNanog陽性を指標とした解析も行ったが、同様の結果が得られた。従来から、膠芽腫の予後不良因子とされている大きな壊死巣に依存した局在であることから、HIF-1α陽性/Sox2陽性(あるいはNanog陽性)/ RNAIISer-P陰性細胞は、膠芽腫の予後不良を規定する階層上位のグリオーマ幹細胞であることが示唆された。さらに我々は、膠芽腫細胞株を用いたspheroid培養系にて、上記ニッチ(壊死と血管に規定される適度な低酸素環境)の構築を試み、正常酸素濃度下で培養したspheroidには認められないHIF-1α陽性/Sox2陽性(あるいはNanog陽性)/ RNAIISer-P陰性細胞が、適度の低酸素濃度下に培養したspheroid内に出現することが示され、組織切片にて特定した新たな幹細胞ニッチをin vitroにて構築することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、治療抵抗性・再発など、グリオーマの予後不良を規定する階層上位の腫瘍幹細胞を組織切片上にて可視化し、腫瘍の真の全摘出を可能とする病理組織診断基準の提唱を目的とし立案された。平成24年度までに、グリオーマの病態を規定する腫瘍幹細胞候補として、HIF-1α陽性/Sox2陽性/ RNAIISer-P陰性細胞をヒト膠芽腫(grade IV)組織内に可視化したが、さらに、平成25年度は、症例数を増やすとともに、幹細胞性格のマーカーとしてSox2に加えてNanogを用いた解析、組織形態計測による組織内局在の詳細な解析を進めた。その結果、【研究実績の概要】に記載した通り、HIF-1α陽性/Sox2陽性(あるいはNanog陽性)/ RNAIISer-P陰性細胞の存在が、グリオーマの組織予後不良因子と相関することが示され、グリオーマの予後を規定する腫瘍幹細胞が可視化されたとともに、それら幹細胞の潜む新たなニッチが特定されたと考えている。さらに、HIF-1α陽性/Sox2陽性(あるいはNanog陽性)/ RNAIISer-P陰性細胞が出現し潜むニッチをin vitroで構築することにも成功しており、それら幹細胞とニッチの存在がグリオーマ組織の再構築能に及ぼす影響を、分子レベルで評価解析するためのin vitro実験系も確立した。当初の検索対象領域であった腫瘍辺縁部・周囲脳組織における幹細胞の可視化が示されてはいないが、上記の通り、研究計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、平成26年度は下記の解析を計画している。 1)膠芽腫細胞株のspheroid培養系にて、HIF-1α陽性/Sox2陽性(あるいはNanog陽性)/ RNAIISer-P陰性細胞の出現するニッチの作製に成功したが、そのニッチ構成細胞の腫瘍組織再構築能をsphere形成アッセイあるいは免疫不全マウス脳内移植により評価解析する。 2)膠芽腫手術検体から単離した幹細胞あるいは膠芽腫細胞株を免疫不全マウス脳内に移植して得られた腫瘍から、HIF-1α陽性/Sox2陽性(あるいはNanog陽性)/ RNAIISer-P陰性細胞をソーティングし単離し、マウス脳内に再移植することにより、それらの組織再構築能を評価解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究計画はおおむね順調に計画したが、細胞培養系および実験動物を用いた解析は当初の計画よりは次年度に持ち越されたため、次年度使用額として261,410円が生じた。 【今後の推進方針】に記載の通り、平成25年度までの研究成果を踏まえた平成26年度の研究計画では、細胞培養実験と動物実験が主体となるため、培養器具・試薬、実験動物に多くの経費が必要と考えている。こうした状況を考慮し、平成25年度分として請求した助成金の次年度使用額分は、平成26年度分として請求した助成金と合わせ、培養器具・試薬購入、実験動物購入、抗体・組織染色試薬購入などの消耗品費として使用する計画である。
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