研究概要 |
悪性神経膠腫(グリオーマ)は予後不良な脳腫瘍で、その治療を困難としている理由として、腫瘍細胞が放射線照射に抵抗性を示すことが挙げられる。従って予後改善には、腫瘍細胞の放射線抵抗性を克服することが必須である。本研究では放射線照射によるDNAの二重鎖切断(DSB)を修復する経路で最初に機能するMRE11-RAD50-NBS1(MRN)を抑制する低分子化合物を用い、照射後のDNA損傷の修復を阻害することで、放射線治療増感効果が得られることを仮説とし、放射線増感を目指した新たなグリオーマの治療法開発を目的とした。本年度は、4つのグリオーマ細胞株、U87, U251, LN229, LN319, LN428にX線(2, 4, 6, 8Gy)を照射し、colony formation assay法を用いて生存率を求めた。その結果、放射線線量依存的に腫瘍細胞生存率は低下した。次に、上記のグリオーマ細胞にMRN低分子阻害剤を0-100μM添加し増殖能をcolony formation assay法により検討した。U251, LN229では25μMで約60-80%の生存率を示し、LN319, LN428では50μMで約60%の生存率を示した。この実験で得られたMRN阻害剤のIC50用量を各グリオーマ細胞に3時間作用させ、放射線を照射しコロニー形成能を検討した。その結果、MRN阻害剤で処理し放射線照射を行なうと、照射単独で治療したものに比べコロニー形成能が有意に抑制され、放射線増感作用が認められることが確認できた。今後は、MRN阻害剤の放射線増感作用のメカニズムを解明するため、腫瘍細胞生存の重要なシグナル分子であるAKTの活性化状態を検討するとともに、細胞周期の解析、細胞死の誘導状況の解析などについて検討する予定である。
|