研究課題
悪性神経膠腫(グリオーマ)は予後不良な脳腫瘍で、その治療を困難としている理由として、腫瘍細胞が放射線照射に抵抗性を示すことが挙げられる。従ってグリオーマの予後改善には、腫瘍細胞の放射線抵抗性を克服することが必須である。本研究では放射線照射によるDNAの二重鎖切断(DSB)を修復する経路で最初に機能するMRE11-RAD50-NBS1(MRN)を抑制する低分子化合物を用い、「照射後のDNA損傷修復を阻害すると放射線治療増感効果が得られる」ことを仮説とし、放射線増感を目指した新たなグリオーマの治療法開発を目的とした。昨年度は4つのグリオーマ細胞株、U87, U251, LN229, LN319, LN428を用い、MRN低分子阻害剤が放射線増感作用を示すことを確認した。本年度はMRN阻害剤による放射線増感作用のメカニズムを解明するため、腫瘍細胞生存の重要なシグナル分子であるAKTの活性化状態を検討した。MRN低分子阻害剤や放射線照射単独治療に比べ、両者を組み合わせるとAKTのリン酸化が低下することが示された。また細胞周期の解析において、MRN低分子阻害剤や放射線照射単独治療に比べ、両者を組み合わせるとG2-M期に細胞が集積することが示された。またアポトーシス細胞をAnnexin V蛍光染色後にフローサイトメーターで分析すると、MRN低分子阻害剤では約2%、放射線照射単独治療では4~7%のアポトーシス細胞率に比べ、両者を組み合わせることで10~15%にアポトーシス細胞率が増加することが示された。今後はこれらの結果の再現性を確認するとともに、TUNEL法による細胞死の検出、Caspase 3の活性状態等を検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度はグリオーマ細胞に対してMRN阻害剤により放射線増感がもたらされる作用機序を解明することを予定していた。細胞周期の解析、細胞死の誘導状況の解析とそのシグナル伝達経路の解析などについて検討できた。
次年度は、本年度検討したグリオーマ細胞に対してMRN阻害剤により放射線増感がもたらされる作用機序を解明する実験を継続するとともに、その再現性の確認を行い、これまでのすべての成果をまとめて学会および論文にて発表する予定である。
実験装置購入のために予算を計上していたが、施設で新しく購入された設備装置での実験が可能となったため、予定使用額を下回る結果となった。研究成果発表のための海外出張、論文作成のために必要な校正などの経費に当てる予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
Neurol Med Chir (Tokyo)
巻: 54 ページ: 290-301
10.2176
Clinical Neuroscience
巻: 31 ページ: 1205-1208
J. Neurosurgery
巻: 119 ページ: 1331-1339
10.3171/2013.7
Neuro-Oncology
巻: 15 ページ: iii 121
巻: 15 ページ: iii 156