研究実績の概要 |
悪性神経膠腫(グリオーマ)は原発性脳腫瘍の中で、もっとも予後不良である。悪性グリオーマの治療を困難としている理由として、治療の中心的役割を担う放射線治療に対して腫瘍細胞が治療抵抗性を示すことが挙げられている。従って悪性グリオーマの予後改善には、放射線抵抗性の克服が必須である。本研究では放射線照射によるDNAの二重鎖切断(DSB)を修復する経路の中で最初に機能する分子であるMRE11-RAD50-NBS1(MRN)を抑制することでDNA損傷の修復を阻害し、悪性グリオーマ細胞の放射線増感を目指した新たな治療法の開発を目的とした。3種類のヒト悪性グリオーマ細胞株、U251, LN229, LN428と正常ヒト線維芽細胞AG1522にMRNを阻害する低分子化合物(Mirin)を0~100μMで添加し各細胞の生存率をみた。Mirin: 25μMで線維芽細胞の生存は抑制されず、すべての悪性グリオーマ細胞の生存率は82-84%と有意に抑制された。この25μM濃度のMirinを各悪性グリオーマ細胞に3時間作用させ、その後放射線を照射しコロニー形成能を検討した。その結果、Mirinで処理し放射線照射を行なうと照射単独の治療に比べ、いずれのグリオーマ細胞においてもコロニー形成能が有意に抑制された。以上より、悪性グリオーマ細胞に対するMirinの放射線増感作用が確認された。さらにMirinによる放射線増感作用の機序を検討した。Mirinと放射線照射の併用により悪性グリオーマ細胞へのアポトーシスの誘導、細胞周期のG2-M期への集積、mitotic catastropheの増加、DNAのDSB修復の障害、細胞生存に重要なシグナル分子であるAKT活性の低下が認められた。以上の結果より、MRNを阻害する低分子化合物(Mirin)は悪性グリオーマ細胞に対して有効な放射線増感剤であり、MRNは悪性グリオーマの放射線治療抵抗性の克服につながる新たな治療標的となる可能性が示唆された。
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