研究課題/領域番号 |
24592175
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
深谷 親 日本大学, 医学部, 准教授 (50287637)
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研究分担者 |
片山 容一 日本大学, 医学部, 教授 (00125048)
大島 秀規 日本大学, 医学部, 准教授 (20328735)
小林 一太 日本大学, 医学部, 助教 (20366579)
山本 隆充 日本大学, 医学部, 教授 (50158284)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳刺激療法 / 視床下核 / パーキンソン病 / L-ドパ / 機能予後 / 精神症状 / 体感幻覚 / 罹病期間 |
研究概要 |
パーキンソン病に対する脳深部刺激療法のよりよい効果が期待できる因子について検討した。とくに薬物療法との関係を重視している。具体的には、術前にどのように抗パーキンソン病薬が投与されていた症例において術後改善効果が高かったか、あるいは術後の副作用の出現頻度が低かったかを検討する。 副作用については、体感幻覚のような精神症状がしばしば重大なADL阻害因子となることを、これまでの経験から認識している。我々は自身の経験から、脳深部刺激療法導入後、急速かつ大量に抗パーキンソン病薬を減量した症例に多く発生する傾向があると推測している。 術後に体感幻覚様の症状が出現し治療に難渋した症例を抽出し、こうした問題が生じなかった症例群と比較し関連する因子を検討した。この結果から術前のLEDとくにL-dopaの投与量の多い症例にはこうした副作用が発現する傾向が高く注意が喚起された。 この成果は、すでに第52回定位・機能神経外科学会のシンポジウムで発表され優秀演題として採択されている。さらに国際定位・機能神経外科学会および国際ニューロモデュレーション学会に演題登録し本年5月と6月に発表する予定である。 さらにこれまでに蓄積された術前術後のUPDRS、Hamilton depression scale、Mini Mental State Examination、Schwab & Englandなどのデータから、術前罹病期間と機能予後との関係、術前のうつ傾向と術後改善率との関係などを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、とくに視床下核脳深部刺激療法(STN-DBS)の予後に影響を与える因子として体感幻覚様症状について検討を行った。STN-DBS後に「喉が詰まる」、「胃がつきあげられる」などの症状を訴える症例にときに遭遇する。こうした症状は、器質的な異常を伴わず著しい不快感を示し、体感幻覚(セネストパチー)に酷似する。本研究では、体感幻覚様症状の発生原因を術前の薬物療法を中心に検討した。 対象は、当院にてSTN-DBS後に体感幻覚様の症状を訴えた18例である(A群)。いずれも器質的な障害は検出されなかった。これらの症例と同時期に手術を行った64例をコントール群(B群)として両群間の術前状態の違いについて検討した。 結果として、術前S&E、HDS、MMSEに有意差は認められなかった。UPDRSはpart IVでA群の方が有意に高かった(p<0.01)。術前の薬物療法に関しては、A群にてLEDとL-dopa投与量が有意に高かった(LED: p<0.01)(L-ドパ: p<0.05)。アゴニストのみのLEDでは両群間に有意差は認められなかった。 体感幻覚様の症状は術前の薬物療法、とくにL-dopaの投与量と関係があると考えられた。本来、体感幻覚は統合失調症や麻薬の禁断症状でみられる。統合失調症の発生はしばしばドーパミン過剰説で説明され、麻薬の主たる作用はシナプス間隙でドーパミン濃度を高めることにあるということを考えると、STN-DBS後の体感幻覚様症状はドーパミン調整異常と関係しているのではないかと思われた。以上のことを初年度は研究成果として明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の計画としては、術前のうつ傾向と機能予後に関連した研究を中心に行い、可能であれば術前罹病期間が与える影響についても検討を行いたい。術前のうつ傾向の程度が、視床下核脳深部刺激療法(STN-DBS)の効果に与える影響についてはHamilton depression scale (HDS)とUPDRSを用いた評価データベースを基に検討を行う。 パーキンソン病患者の半数以上にうつ傾向がみられ、日常生活動作を阻害する一因になっていることがしばしば指摘されている。うつが引き起こす直接的問題ではなく、本研究えはうつ傾向がSTN-DBS後の運動症状の改善とその維持に与える影響について検討する。皮質-基底核-視床-皮質回路の機能解剖から考えれば運動と情動は密接に関連し合って作動しており、完全に切り離して考えることはできない。 対象は、当院にてSTN-DBSを施行し、術前のHDSと術前および術後3年目までのUPDRSが把握できている症例とする。これらの症例を術前のHDSによって低得点のグループと高得点のグループに分け、両群間のUPDRSの改善率を術直後と術後3年目にて比較する。なお、両群間で、手術時年齢、罹病期間、術前LED、術前UPDRSに有意差は認められないように配分する。 また余裕があれば、比較的早期に手術を行った症例群と平均的な罹病期間を経て手術を行った症例群の機能予後の比較も行う。対象は、術前および術後3年目までのUPDRS、LED、HDS、MMSE、S&Eなどの情報が把握できている症例とする。これらの症例を手術時の罹病期間が9年未満の症例と9年以上の症例に分け、運動機能の改善の程度に差があるかを検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、物品費と旅費として用いる予定である。物品費は主にUPDRS、Hamilton depression scale、Mini Mental State Examination、Schwab & England などの評価項目がまとめられた用紙の作成費として用いられる。これには患者日誌ための用紙も含まれ、およそ500部で15万円程度かかる予定である。他に統計解析のためのソフトあるいはこれに関連する機器が必要となる見込みである。これらを合わせて15万円程度を見込んでいる。 また旅費に関しては、成果を学会にて発表するためのもので国際学会1回(約20万円)と国内学会4回程度(合計約20万円)を見込んでいる。本研究は、実際の臨床の場にて喚起された問題意識に基づく臨床研究であり、その成果を多くの臨床家に知ってもらえれば、直ちに治療戦略に活かしてもらえる可能性が高い。したがって、できるだけ多くの場で本研究費によって明らかにされた事実を発表することは意義が大きく、成果を社会に還元することになると考える。
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