研究課題/領域番号 |
24592175
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
深谷 親 日本大学, 医学部, 准教授 (50287637)
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研究分担者 |
片山 容一 日本大学, 医学部, 教授 (00125048)
大島 秀規 日本大学, 医学部, 准教授 (20328735)
小林 一太 日本大学, 医学部, 助教 (20366579)
山本 隆充 日本大学, 医学部, 教授 (50158284)
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キーワード | 脳深部刺激療法 / 視床下核 / パーキンソン病 / うつ / 機能予後 / 認知機能 / 運動機能 / 情動 |
研究概要 |
パーキンソン病に対する脳深部刺激療法は治療選択肢の一つとして確立したものであるといえる。しかし、良好な効果を示す症例が数多くいる反面、長期的にみると十分な効果が引き出せない症例が少なからず存在することも事実である。本研究では、よりよい効果が期待できる要因は何かということについて検討した。初年度は、視床下核脳深部刺激療法(STN-DBS)後にしばしば生じる体感幻覚様の症状と術前の薬物療法の内容について検討した。その結果から精神症状や情動の変化が患者のQOLと密接に関係していることを実感した。 パーキンソン病患者には、幸福感の喪失状態(アンヘドニア)など気分の落ち込みやうつ傾向が高頻度にみられる。本研究では術前のうつ傾向がSTN-DBS後の機能改善にいかなる影響を与えるか、長期的な経過も含め検討した。 その結果、術前にうつ傾向がみられる症例はそうでない症例に比較して長期的な運動機能の回復がよくないことがわかった。認知機能についてもうつ傾向がない症例の方がよい状態が維持される傾向にあった。 この成果は、すでに第27回日本ニューロモデュレーション学会および大36回関東機能的脳神経外科カンファレンスにて発表している。さらに、これまでに蓄積された術前術後のUPDRS、Hamilton depression scale、Mini Mental State Examination、Schwab & Englandなどのデータから、術前罹病期間と機能予後との関係などを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、とくに視床下核脳深部刺激療法(STN-DBS)の予後に影響を与える因子として体感幻覚様症状について検討を行った。本年度の研究では、術前のうつ傾向がSTN-DBS後の機能改善にいかなる影響を与えるか検討した。対象は、当院にてSTN-DBSを施行し、術前のHamilton depression scale (HDS)と術前および術後3年目までのUPDRSが把握できている症例である。これらの症例を術前のHDSによって2群に分類した。術前HDSが5点以下のグループをA群(n=41)とし15点以上のグループをB群(n=27)とした。両群間のUPDRSの改善率を術直後と術後3年目にて比較した。 両群間で手術時年齢、罹病期間、術前LED、術前UPDRSには有意差は認められなかった。術直後のUPDRS total scoreの改善率には、on時とoff時ともに有意差は認められなかったが、術後3年目の改善率はon時(p=0.012)、off時(p=0.037)ともA群の方が有意に良好であった。サブスコアでみるとpart IIIのon時(p=0.02)とpart IVのon時(p=0.001)およびoff時(p=0.002)において有意にA群の改善率が良好であった。また、術後3年目のMMSEでは、B群にて有意な低下が認められた(p=0.006)。これに対しA群には低下は見られず有意ではないが、わずかながら中央値の上昇が認められた。 上記のごとくほぼ予定通りに研究は進行し、予想されたとおりの意義のある成果が出ている。成果については当初の予測よりやや実り多いものとなっているといってもよいと考える。示した詳細な結果は、臨床の場で直ちに役立つ可能性の高いものである。
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今後の研究の推進方策 |
3年目の計画としては、手術までのパーキンソン病の罹病期間の長短が機能予後に与える影響についても検討を行う。従来、視床下核脳深部刺激療法(STN-DBS)は、薬物療法が限界に達した後の進行期パーキンソン病患者に対し行うべきであるという考えが主流であった。 しかし、近年、DBSを早期に導入した症例においても、薬物療法を長期に継続した症例より機能予後が良好であったことを示すcontrolled randomized trialも発表され、早期手術の意義が注目されている。来年度の研究では、比較的早期にSTN-DBSを導入した群と平均的な罹病期間を有する群の予後を比較し、罹病期間が手術効果に与える影響について検討した。 対象は、当院にてSTN-DBSを施行し、術前から術後3年目まで、UPDRSおよび神経心理学的検査のfollow-upがなされている症例とする。これらの症例を術前の罹病期間が9年未満のグループ(A群、n=34)と9年以上のグループ(B群、n=67)に分け、機能予後の違いについて検討する予定である。 具体的には、まず術前のUPDRS、MMSE(Mini-Mental State Examination)およびHDS(Hamillton Depression Scale) をA群B群間で比較する。さらに術後1年以内に評価されたこれらのスコアの変化率を、オン時とオフ時において比較する。同様に術後3年目の結果もA群B群間で比較する。 これまでに注目された早期手術に関する研究は薬物療法との比較が主体であり、罹病期間の長い群と短い群の比較を行ったものはなかった。本研究の成果は、早期手術に関する重要な新知見をもたらすものと考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
成果発表のための旅費は、招待講演が多かったため自己負担分が少なくなった。 昨年度と同様に、主に物品費と旅費として用いる予定である。高額な機器の購入は予定していない。物品費はUPDRS、Hamilton depression scale、Mini Mental State Examination、Schwab & England などの評価項目がまとめられた用紙の作成費として用いられる。これに加え、wearing-offの状態や運動機能と抗パーキンソン病薬の内服時間との関係をみるための患者日誌も作成する。 これらの評価用小冊子は、およそ500部で15万円程度かかる予定である。他にデータ保存用のメディアやファイル、さらにこれに関連する機器および文房具が必要となる見込みである。これらを合わせて15万円程度を見込んでいる。また旅費に関しては、成果を学会にて発表するためのもので国際学会1回(約20万円)と国内学会4回程度(合計約20万円)を見込んでいる。
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