研究課題/領域番号 |
24592180
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
成田 善孝 独立行政法人国立がん研究センター, 中央病院, 副科長 (40392344)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 転移性脳腫瘍 / 乳癌 / HER2 / trastuzumab / ハーセプチン |
研究概要 |
【目的】乳癌は化学療法剤や分子標的薬などの進歩により予後が改善したものの、脳転移は化学療法への抵抗性を示し、依然として予後不良である。本研究では、初発乳癌で経過中に脳転移をきたした症例に対し、臨床像、原発巣と転移巣のホルモンレセプターとHER-2の発現の変化と予後との相関を検討し、分子生物学的な観点から乳癌の治療上の問題点を明らかにした。 【対象と方法】1983~2011年に治療を開始した初発乳癌で2000~2012年に、国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科ならびに大阪府立成人病センター脳神経外科脳転移をきたし摘出術を行った62例を対象とし、臨床像、病理診断、Estrogen receptor (ER)、Progesteron receptor (PR)、HER-2の発現の変化と予後について検討した。 【結果】初発乳癌の女性59例男性3例で初発時年齢中央値45.5歳、脳転移時年齢中央値51.0歳であった。初回脳転移までの期間中央値4.0年、2回目の脳転移再発までの期間中央値0.6年であった。脳転移後のMST 1.1年であった。ER,PR,HER-2の変化は17人(29.3%)で認められた。原発巣でHER-2(-)症例のうち11.8%が脳転移巣でHER-2(+)に変化していた。脳転移巣でHER-2(+)であり、脳転移後にもtrastuzumabを投与されていた症例では経過中に癌性髄膜炎を認めず、HER-2(+)でtrastuzumabを投与されなかった症例とHER-2(-)症例と比較し、脳転移後の生存期間が有意に長かった(p=0.0005)。 【結論】原発巣、脳転移巣でER,PR,HER-2の変化は17人(29.3%)で認められ、脳転移巣でHER-2(+)症例で脳転移後もtrastuzumabを投与することで予後が良く、脳転移巣でのHER-2の発現の再評価が有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乳癌の原発巣と転移巣でHER2 statusが陰性から陽性と診断される症例が11.8%で認められるにも関わらず、脳転移診断後もtrastuzumab(ハーセプチン)が投与されていないという治療の問題点を明らかにすることができた。さらに、転移性脳腫瘍患者で全脳照射を行い、さらにハーセプチンが投与されている患者では、癌性髄膜炎の発症が見られないことを明らかにすることができた。これまでハーセプチンは脳転移には無効と考えられてきたが、過去の論文も検討し、脳血流関門 (Blood Brain Barrier)が放射線治療により一時的に破綻して薬剤が脳内に到達することが示唆された。本成果をもとに、これまで全く治療の方法が無かった、乳癌・癌性髄膜炎に対して、ハーセプチンと放射線併用による臨床試験を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
肺腺癌と乳癌(腺癌)を対象として、臨床データから放射線治療後1年以内に再発した症例と、非再発例についてマイクロアレイを用いて腫瘍の遺伝子発現プロファイルを得る(肺腺癌の再発・非再発それぞれ20例、乳癌の再発・非再発例それぞれ15例)。肺癌における再発例と非再発例の遺伝子発現の差異と、乳癌における再発例と非再発例の遺伝子発現の差異から放射線感受性・抵抗性に関する遺伝子を明らかにする。 解析する症例は①肺腺癌または乳癌で手術全摘出後、1年以上局所再発のない症例 ②肺腺癌または乳癌で手術全摘出後、1年以内に局所再発した症例 ③(1)・(2)ともいずれも手術全摘出後に全脳照射が行われている症例 である。 上記をみたした凍結腫瘍組織から、国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科研究室においてRNAを抽出し、国立がん研究センター研究所でマイクロアレイ・エクソーム解析等を行う。得られたデータは同研究所および当研究室および、東京大学脳神経外科においても検証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
RNA/DNA抽出/発現解析などのための研究試薬や、遺伝子発現プロファイルを得るための各種チップなどに使用する予定である。
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