小児虐待による頭部外傷(abusive head trauma:AHT)は重症で予後が悪く、医学的治療に成功しても社会的対応を誤ると子供を死亡させてしまう。児童相談所に通報すべきかを迷うことも多い。臓器移植法改訂に伴い、臓器提供のドナーが虐待の被害者でないかどうか鑑別することも必要である。 本研究はこれまでの虐待による小児頭部外傷症例を後方視的に分析する研究である。方法としては臨床像について画像所見を中心に6型に分類し、虐待対応が明らかになったものを中心に検討を行った。 AHT/SBSには多彩な頭蓋内損傷があり、細かい画像分析が必要である。画像所見からAHT/SBS82例を6型に分類した。Ⅰ型は脳挫傷を伴う広範囲の損傷、Ⅱ型は急性硬膜下血腫と脳ヘルニアを主体とするもの、Ⅲ型は薄い硬膜下血腫に脳浮腫を主体とするもの、Ⅳ型は慢性硬膜下血腫に急性出血を合併するもの、Ⅴ型は小さな硬膜下血腫で脳実質損傷を伴わないもの、Ⅵ型は多発性頭蓋骨骨折を主体とするものである。捜査段階あるいは裁判の経過、あるいは児童相談所のプロフェッショナルな職員が調査を行った経過で、虐待によるものと明らかになったと判断できる頭部外傷33例の受傷機転について検討をおこなった。Ⅰ型は殴打・投げつけなど多彩であり、Ⅱ型およびⅢ型は暴力的ゆさぶり、Ⅳ型は頻回のゆさぶり、Ⅴ型は軽いゆさぶり、Ⅵ型は圧迫が主な外力であった。 今後の課題として、医学(脳神経外科、放射線科)、工学系、法曹界の専門家が一堂に会し、画像診断と照らし合わせ検討する症例検討会を定期的に行い、これらの事案のファイル化をしていく必要がある。これまでに準備会を2回開催し、今後の定期開催の予定を立てることができた。
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