研究課題
これまで腰椎椎間板および膝関節の支配神経系におけるNGFの関与について研究調査を行った結果,特に変性した運動器組織に於いて産生が亢進したと考えられるNGFが末梢神経自由神経終末を刺激し,その特異的高親和性受容体であるtrkAや低親和性受容体であるp75NTRと結合,これらが相互作用を来すことで軸索性に後根神経節(DRG: dorsal root ganglia)まで輸送された結果,炎症性疼痛に関与する神経ペプチドであるCGRP(calcitonin gene-related peptide)の産生を惹起することで,変性運動器における慢性痛の原因となりうる可能性を報告し,さらにNGF交代の投与によってDRGにおけるCGRPの産生が抑制されることで慢性痛が抑制される可能性についても示唆してきた.本年度は特に,頸椎椎間板由来の頸部痛について基礎実験を行った.頸椎椎間板由来の疼痛は臨床の現場では特に交通事故や転倒などの際に重要となる病態であるがこれまで詳細な報告はなされてこなかった分野である.これまで行ってきた腰椎椎間板性腰痛の一環として,具体的にはラットC5/6頸椎椎間板を注射針にて複数回穿刺した後にNGF抗体を椎間板内注入することで,当該椎間板を支配するDRGでの炎症性疼痛ペプチドであるCGRPの産生が生食のみを投与した群と比較し有意に抑制されたことを報告した.これは,NGF抑制による抗サイトカイン療法が腰椎のみならず頸椎椎間板性腰痛にも有効であることを示唆し,頸椎も含めた慢性運動器疼痛の病態について明らかにするものである.
2: おおむね順調に進展している
昨年度計画された細胞培養によるin vitro実験系でのNGF阻害による運動器疼痛の抑制については本年度達成されなかったが,これは抗体の仕様や細胞培養の手法に依存するものと思われ,実験環境や設定に起因するものであるため引き続き実験を行っていく.その一方で今回のようにより臨床に近い形でのNGF阻害がもたらす運動器疼痛の抑制作用について報告することにより本邦のみならず運動器疼痛そのものの発展を促す作用があるものと考えられる.このため,運動器疼痛におけるNGF阻害という観点からは進展傾向と見なすことが出来る
今後の研究の方策としては,基礎実験に加えてヒトにおけるNGF阻害関係の研究も並行して行っていく予定である.ただし現在ではNGF阻害薬に関する臨床研究は阻害薬の安全性や安定性の問題から十分なものは確立しておらず,局所の炎症・疼痛においてNGFよりも上位カスケードに位置する腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis factor: TNF)-αやインターロイキン群の阻害などによる疼痛抑制作用についても調べることで複合的にNGF阻害との関連を調査する予定である.
動物実験に関わる実験動物や試薬,実験器具,消耗品購入および成果発表のための旅費,論文発行費などのため引き続き実験試薬や動物の購入などの基礎実験における費用のほか,臨床への応用研究などにおける試薬の購入などにも充填予定である
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巻: 未定 ページ: 未定