研究課題
今年度は、昨年同様ラットを用いた脊髄損傷モデルの作製行い、慢性期におけるリハビリテーション効果の新規解析を行った。さらに培養骨髄間葉系細胞(BMSC)と人工担体(ハニカムコラーゲン:HC)移植の効果を解析した。血管クリップで脊髄を一定時間挟んで胸髄損傷を作製した。本圧挫損傷モデルでは、脊髄損傷6週間後には運動機能の回復が見られなくなる。同時期からトレッドミル訓練と水泳訓練を4週間行うことで昨年報告したように運動機能の回復が得られた。今年度は、シナプス蛋白の発現変化を経時的に確認した。脊髄腰膨大に存在するシナプス開口分泌や神経突起の成長に関わるSNAP25、シナプス小胞・シナプス前膜に存在するSIP30、シナプス後肥厚を構成するPSD-95の発現パターンを解析した。その結果、非損傷ラットと比較してSNAP25とSIP30のmRNAの発現はリハビリによる変化は認められなかった。一方、PSD-95 mRNAはトレッドミルおよび水泳開始1週間目から増加していた。リハビリ開始4週後に潅流固定を行い腰膨大の横断切片を作製して免疫染色すると前シナプス蛋白であるシナプトフィジンの発現パターンに大きな変化はなかった。同部を用いたウエスタンブロット法でPSD-95の発現量を比較するとトレッドミル、水泳訓練群ともに増加していた。このことから脊髄損傷により低下した上位からのシグナル伝達は、後肢運動によって変化はおこらないが、筋の強制刺激により末梢からのシグナル伝達を増加させることで、脊髄シナプスの成熟や可塑性変化がおきた可能性が示唆された。移植実験として人工担体HCに導入したBMSCの移植を損傷6週の慢性期脊髄に施行した。経時的に運動機能を評価すると、損傷移植無しのリハビリ群と比較して機能回復は不良であった。顕微鏡下に損傷脊髄内にHC移植を行っているがホスト脊髄への侵襲が強かったためと推測された。
2: おおむね順調に進展している
今年度の結果から慢性期ラット損傷脊髄に対するリハビリテーションによって中枢側からの刺激よりも筋の強制刺激により末梢からのシグナル伝達を増加させることで脊髄後シナプスの成熟や可塑性変化がおきた可能性が明らかとなった。トレッドミルと水泳の違いはなく運動種類に差はなかった。一方、脊髄損傷慢性期における人工担体の移植作業がホスト脊髄に高い侵襲を加えることが明らかとなり、今後、移植手技の工夫が必要と考えられた。リハビリとの組み合わせは必須であるがトレッドミル訓練と水泳訓練に差がないことからより簡便なトレッドミルを細胞移植と組み合わせて運動および知覚機能の再獲得を目指していく。
リハビリテーションによる神経機能再生機序については、損傷慢性期であっても神経栄養因子の発現増加ならびに後シナプス蛋白の発現増強による機能回復の可能性が明らかとなた。本内容については学会発表ならびに論文作成をすすめていく。一方、人工担体の移植については脊髄欠損部への架橋モデルには有効であるが、脊髄圧挫モデルへの適応には侵襲が強く困難と考えている。今後は、脊髄損傷慢性期におけるBMSC細胞移植の有効性を確認し、脊髄瘢痕を除去するコンドロイチナーゼ注射を組み合わせることで運動・知覚機能再建を目指していく。
動物実験施設の改修があったため十分な動物実験が施行できなかった。そのため組織や分子生物学的解析に使用する消耗品も少なかった。今年後は、改修も終了して動物実験を再開し、動物飼育費や解析のための消耗品に使用する。また、学会発表に伴う旅費や論文作成のための英文校正に使用する。
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