研究実績の概要 |
椎間板変性のメカニズムを特定することは、腰椎疾患の成因解明に極めて重要である。我々は、これまでに椎間板ヘルニア退縮のメカニズムを同定してきており、炎症性サイトカイン(TNF-α、TWEAK、MCP-1)や蛋白分解酵素(MMPs)や血管新生因子(VEGF)やマクロファージの遊走が中心的役割を担うことが明らかとなってきている。椎間板ヘルニア退縮と椎間板変性の機序において、いずれもが炎症に起因するとされており、今回、これら一連のメカニズムのイニシエーターを同定すべく、実験を行った。 当初計画していたPAR-2で有意な反応が得られず、血球の遊走や炎症反応のイニシエーターとして、各組織分野で注目されているヌクレオチドに着目しターゲットをATPに変更した。椎間板にATP (Adenosine tri-phosphate)およびAMP(Adenosine monophosphate)で刺激を行うと、時間・濃度依存的にVEGFの生産の増大を認め、ATP刺激で同様にTGF-βの生産の増大を認めたが、AMP刺激ではTGF-βの生産は変化しなかった。また、椎間板への物理的・化学的刺激で、ATPが放出されることも認めた。次のターゲットとしてATP、AMPのレセプターであるP2X1-7(イオンチャネル型受容体)およびP2Y1.2.4.6.11-14.15(G蛋白質共役型受容体)について実験を行った。各受容体の阻害剤を使用し検討した。BBG(P2X4,5,7 antagonist)およびPPADS(P2X1,2,3,5,6, P2Y1,4,6 antagonist)では上記の反応がブロックされ、KN-62(P2X7 antagonist)では阻害も増強も示さなかった。 以上より、ATPが炎症のイニシエーターとして椎間板に作用し、そのレセプターはP2X4を介している可能性が示唆された。
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