研究概要 |
我々は昨年度,正常および損傷脊髄における脂質の変化を, MALDI法を用いた質量分析顕微鏡法(Imaging Mass Spectrometry)で解析した. まず, 正常脊髄におけるリン脂質, フォスファチジルコリン(PC)の分布を可視化した. そして,ドコサヘキサエン酸(DHA)含有PCは, 脊髄損傷後1日より脊髄損傷の中心部より減少し,その後不可逆的に減少することを明らかにした. 本年度では,炎症を抑制する薬剤であるIL-6受容体抗体(MR16-1抗体)を脊髄損傷後マウスに投与し(M群),損傷脊髄においてPCがどのように変化するか対照群(C群)と比較検討した. 解析には質量分析顕微鏡法に加え,免疫組織学染色, Luxol fast blue染色の組織評価を同時に行った. また行動解析を行い,実際にこの薬剤の行動学的有効性を本実験系において検証した.免疫染色の結果, 損傷後1週,4週の時点でM群はC群に比較して損傷周辺部の炎症細胞の浸潤が抑制され,Luxol fast blue染色では損傷後4週時のM群においてC群よりも残存した髄鞘面積が大きかった.行動解析では損傷後3週以降においてM群で有意な運動機能回復が観察された. IMS解析では,損傷後1週の損傷脊髄においてDHA含有リン脂質であるPC(diacyl(d)-16:0/22:6),PC(d-18:0/22:6)が、損傷周辺部でC群よりも有意に増加していた.脊髄損傷では炎症が惹起され,脊髄損傷部の脂質に変化が生じる. DHAは神経保護作用を有しており,IL-6受容体抗体投与によりDHA含有PCが損傷周辺部で増加したことは,脊髄損傷後に神経保護的に作用し,運動機能の回復に関与している可能性が考えられた.
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