我々はこれまでに神経幹細胞移植とヒストン脱アセチル化酵素阻害活性をもつバルプロ酸を併用することで、脊髄損傷に対して高い治療効果を発揮する新規治療法を開発した。しかし、今回我々が開発したこの新規治療法を安全に臨床応用するためには、ヒトに近い霊長類で治療効果を詳細に検討することが必要である。当研究では、霊長類脊髄損傷モデルに対するiPS細胞由来神経幹細胞移植治療の効果を検討する事が目的である。 我々はこれまでにウサギ・ラット・マウス脊髄損傷モデルを用いた研究を展開してきたため、その技術を応用し、カニクイザル専用の圧挫損傷モデル作製装置を開発した。その後、パイロット実験として脊髄損傷モデルを作製した。カニクイザル(3年齢オス)に全身麻酔をかけ、腹臥位で手術を行った。第10胸椎レベルに後方から正中縦切開し、椎弓を露出させた後、椎弓切除を行い脊髄を露出させた。その後脊椎を固定し、Impactorにて脊髄損傷を作製した。 その後、軽度・中程度・重度の3つの異なる損傷エネルギーにて脊髄を圧挫損傷し、後肢機能を評価したところ、損傷エネルギーの大きさに応じて段階的な機能障害がみられた。 損傷4週間後潅流固定した後に、脊髄を採取し、固定後切片を作成し、免疫染色や髄鞘特異的な染色法によりグリア瘢痕の形態や脊髄内ニューロンの生存、脱髄の程度を評価している。 今回の結果から本研究に最適な損傷エネルギーが同定できたため、一定のエネルギーで損傷を加えたとき、安定した損傷モデルが作製できることを確認後、治療を行った個体でどの程度の後肢運動機能改善がみられ、組織学的にどのような変化が起こっているかを検討予定である。また、トレーサーを用いたり電気生理学的手法を用いてさらに詳細な評価を行なう予定である。
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