研究課題/領域番号 |
24592223
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
篠田 裕介 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80456110)
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研究分担者 |
河野 博隆 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20345218)
平田 真 東京大学, 医学部附属病院, 届出診療医 (50401071)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 骨・軟部腫瘍学 |
研究概要 |
デスモイド腫瘍は良性腫瘍であるが、非常に強い局所浸潤傾向を示すため、悪性腫瘍に準じた手術療法が標準的治療法とされてきた。しかし、手術療法の治療成績は決して良好とはいえず、高い局所再発率と大きな組織欠損が問題となっている。われわれはデスモイド腫瘍の病態・組織像がケロイド・肥厚性瘢痕と類似していることに着目し、ケロイド治療で確立されているトラニラストを用いて、デスモイド腫瘍に対するトラニラストの有効性に関する探索的臨床試験を行っている。症例数を蓄積し、その治療有効性について検討している。また、トラニラスト作用メカニズムの検討をin vitroで行っている。まず、デスモイド腫瘍細胞株の樹立を3T3 methodを使用して確立した。これを用いて、in vitroでトラニラストの有効性について検討した。デスモイド腫瘍細胞の増殖抑制効果がみられる傾向にあったが、浸潤能についてはあまり効果がみられなかった。 また、変異型β-catenin導入マウス皮膚線維芽細胞をによるデスモイド腫瘍原生の検討を行っている。マウス皮膚線維芽細胞にレトロウイルスベクターを用いて変異型β-cateninを導入し、細胞株を樹立した。これにより、以下の腫瘍原生の項目について検討している。MTT assayあるいは増殖曲線を用いた細胞増殖に関する検討では、変異導入細胞での増殖能亢進がみられた。Scratch assayならびにBoyden chamberによる細胞遊走能に関する検討、Matrigel coating chamberによる組織侵入能に関する検討をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
デスモイド腫瘍に対するトラニラストの有効性に関する探索的臨床試験に関しては、症例数が増加せず、データの蓄積が行えないため、その有効性について有意な検定を行えていない。作用メカニズムの検討に関しては、①デスモイド腫瘍細胞株の樹立は症例が限られているが、行えている。当院倫理委員会からの許可と患者様からの研究協力へのインフォームドコンセントを得た上で、デスモイド腫瘍症例の組織から腫瘍細胞を培養し、細胞株の樹立を行った。これを用いてトラニラスト投与による治療効果を検討した多処、増殖能の抑制効果がみられた。しかし、腫瘍の浸潤能に関しては、一定の効果が見られなかったため、さらなる検討が必要と考えている。また、②変異型β-catenin導入マウス皮膚線維芽細胞によるデスモイド腫瘍原生の検討を行っている。デスモイド腫瘍の主要な原因遺伝子である変異型β-cateninをマウス皮膚線維芽細胞にレトロウイルスベクターを用いて変異型β-cateninを導入して行った。遺伝子の安定導入が困難で、細胞株を樹立するまでに時間がかかった。腫瘍原生の検討は以下の項目について行っている。MTT assayあるいは増殖曲線を用いた細胞増殖に関する検討では、腫瘍増殖能の抑制がみられた。一方で、Scratch assayならびにBoyden chamberによる細胞遊走能に関する検討、 Matrigel coating chamberによる組織侵入能に関する検討では、一定の治療効果がみられなかった。 real time PCR法を用いた各種分化マーカー遺伝子の発現確認による分化に関する検討はまだ行えていない。各種サイトカインなどのシグナル分子についての検討として、GSKsignalとwnt/βcateninシグナルに着目して検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
臨床におけるデスモイド腫瘍に対するトラニラストの有効性に関する探索的臨床試験として、引き続き症例数を蓄積し、その有効性について検討していく。さらに、可能な限り、腫瘍サンプルから細胞株を樹立し、臨床での治療効果とin vitroでの効果を比較、分子生物学的な検討をしていく。今年度行ったトラニラスト作用メカニズムの検討を引き続き行っていく。腫瘍増殖能の抑制効果は一定の効果が見られたので、この作用機序について検討を行っていく。具体的には、各種細胞増殖のマーカーをreal time RT-PCRを用いて、遺伝子発現に与える影響を調べる。また、トラニラスト投与前後での遺伝子発現プロファイルの検討をマイクロアレイなどの網羅的手法を用いて行っていく。さらに、細胞内シグナル、特にwnt/βvcateninとGSK signalに着目して、トラニラストの作用機序を詳細に検討していく予定である。臨床でのトラニラストの治療効果と遺伝子変異部位の関係を、トラニラストの作用機序と照合し検討する。その中で得られた知見をもとに、トラニラスト耐性株を樹立してトラニラストの分子生物学的な作用機序解析をするとともに、作用に関与する新規薬剤を検索し、有効性を検討する。さらに、ヌードマウスへの移植実験におけるトラニラストによるデスモイド腫瘍抑制機構の解析を今後行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
【試験薬の購入費】本研究では臨床試験に用いるトラニラストは本研究費で購入し、試験参加患者に供給する。トラニラスト(薬品名:リザベン)を本研究プロトコールで投与する場合、1日3錠必要なため、その年間薬剤購入費は一人あたり 70円×3(1日分)×365(日)=76650円 となる。来年度は、年15名の新規参加者が生じたと想定して試験薬購入費を計上した。 【本研究独自の試薬】増殖関連分子の発現確認、各種マーカー遺伝子の発現確認に必要なプラスミドDNAの作成と精製の試薬キット(QIAGEN QIAprep Spin Miniprep Kit, HiSpeed Plasmid Midi Kit, QIAquick PCR Purification Kit, QIAquick Gel Extraction Kit, Roche Rapid DNA Ligation Kit、Takara及びNEBの制限酵素、TOYOBO KOD-plus)、シークエンス試薬(ABI BigDye Terminator)、Real Time PCR関連試薬(QIAGEN RNeasy Mini Kit, Quantitect RT-PCR Kit, Roche FastStart Universal SYBR Green Master (ROX))、遺伝子導入試薬(Roche FuGene)、免疫染色キット(Dako CSA II)、各種抗体(Santa Cruz、SIGMA)などが必要である。 【細胞培養と動物飼育に伴う経費】マウスの購入費の他に細胞培養と動物飼育に伴って必要となる培地、飼料も消耗品として計上した。また、腫瘍原生解析に必要なマトリゲルコートディッシュやボイデンチャンバーなどの消耗品の購入も必要となる。
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