デスモイド腫瘍は良性腫瘍であるが非常に強い局所浸潤傾向を示すため、悪性腫瘍に準じた手術療法が標準的治療法とされてきた。しかし、手術療法の治療成績は良好とはいえず、高い局所再発率と大きな組織欠損が問題となっている。我々はデスモイド腫瘍の病態や組織像がケロイド・肥厚性瘢痕と類似していることに着目し、ケロイド治療で確立されているトラニラストを用いてデスモイド腫瘍に対するトラニラストの有効性に関する探索的臨床研究を行っている。 症例数を蓄積し、その治療有効性について検討し、トラニラストにより腫瘍の縮小がみられたものと効果がみられず増大したものの遺伝子解析、特にβ-カテニンの変異について解析を進めた。少数ではあるが、デスモイドの効果とβ-カテニンの変異に関しては一定の傾向は見られなかった。 局所病変 におけるトラニラストの有効性に関しても、一定の傾向が見られなかったが、有害事象が生じた例はなかった。トラニラストの作用メカニズムの検討として、マウス胎児皮膚線維芽細胞に変異型β-カテニンを安定導入した細胞株とデスモイド腫瘍症例由来の新規樹立細胞株を用いた in vitro の 系でトラニラストの増殖抑制効果のメカニズムを分子生物学的手法を用いて検討した結果、 Wnt/β-catenin シグナル関連分子のnon-canonicalな経路で作用している可能性が見いだされ、臨床的な効果の有無と比較検討し、さらに解析しているところである。 また、in vitroでトラニラスト投与前後での遺伝子発現変化をマイクロアレイを用いて調べているが、まだ一定の成果を得られてはいない。
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