今年度は、損傷筋の増殖活性と分化因子の関係について解析を進め、損傷周囲での浮腫の評価をエバンスブルー染色で行った。ラット前脛骨筋に薬剤性筋損傷を作製し、増殖活性を評価するBrdUを給水ボトルにいれてHBO施行群と未施行群に分けて3日後に組織学的評価を行った。その結果、損傷部分には筋衛星細胞の増殖期マーカーであるPax7陽性とBrdU陽性細胞が観察され、HBO群と未施行群で比較するとHBO群での陽性細胞数が増加していた。前年度報告では、HBOが筋分化制御因子MyoDの発現を促進していたが、今年度の報告と併せるとHBOによって損傷組織内の筋衛星細胞の活性化時期を早めていることが明らかとなった。一方、臨床的にはHBO後に損傷周囲の体積が減少することが報告されており、本動物モデルでも評価が必要と考えた。薬剤性筋損傷モデルラットを用いて損傷後1日、3日、8日にエバンスブルー染色による浮腫面積の検討を行った。エバンスブルーは灌流固定1日前に投与した。損傷1日目、3日目ではHBO群と未施行群で差はなく、8日目にHBO群で浮腫面積が減少していた。しかし、筋再生は損傷早期から始まっており、同手法による浮腫評価が十分でない可能性が考えられた。今後は、動物用CTを用いて実際の下腿体積を経時的に算出することによって腫脹の評価を行っていく予定である。また、研究計画にあった薬剤を使用しない打撲性腓腹筋筋損傷モデルを確立した。腓腹部の固定方法を工夫し、重錘先端の形状をやや丸めにすることで筋断裂を予防して、安定した腓腹筋圧挫損傷モデルが作製可能となった。今後は、薬剤性筋損傷モデルと比較しながらHBOの有効性について明らかにしていく予定である。初年度から筋衛星細胞に注目して解析を進めてきたが、筋衛星細胞活性化のセカンドメッセンジャーである活性酸素種や一酸化窒素の関与については今後の研究課題としている。
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