研究課題
我々は特異的な染色体転座を持つ明細胞肉腫に注目し、染色体転座の結果生じる融合遺伝子EWS/ATF1(明細胞肉腫)の機能解析を行ってきた。EWS/ATF1融合蛋白は異常な転写活性をもつ転写因子として働き、細胞増殖や癌化に強く関与していることを明らかにした。さらに融合遺伝子EWS/ATF1を強制発現させることが出来るEWS/ATF1-inducibleマウスの作成に成功し、EWS/ATF1を強制発現させたマウスの全てにおいて約3カ月の短期間で軟部組織に明細胞肉腫様の肉腫が発生することを見出した。加えて、モデルマウスに発生した腫瘍、ヒト明細胞肉腫細胞株および手術切除標本において、FOS(proto-oncogene)が過剰発現していることを発見した。しかも、mRNAレベルでの発現量は正常細胞や他の肉腫の10~800倍と高値であった。これらの知見をふまえ、明細胞肉腫におけるFOSの過剰発現のメカニズムの解析を行った。まず、EWS/ATF1発現誘導マウスに発生した腫瘍におけるEWS/ATF1とFosの発現量を評価し、ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いてEWS/ATF1によるFos のプロモーター活性を評価した。さらにクロマチン免疫沈降法にてFosのプロモーター領域へのEWS/ATF1の直接的結合の有無を評価した。その結果、FOSの発現がEWS/ATF1の発現量に比例することを見出した。またFosのプロモーター解析にて,EWS/ATF1がFosプロモーター上のcAMP-resposive element (CRE)に直接結合してFosの転写を活性化していることが判明した。さらに、マウスおよびヒト明細胞肉腫の培養細胞において、RNA干渉によりFOSのノックダウンを行ったところ、細胞増殖活性、トランスフォーメーション能が低下した。次にFOSのinhibitor(T5224)をEWS/ATF1-inducibleマウスに経口投与したところ、一定の抗腫瘍効果が認められた。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、明細胞肉腫におけるFOSの過剰発現をFOSのinhibitor(T5224)投与によって低下させ、一定の抗腫瘍効果を見出すことができた。これらの成果は、明細胞肉腫の分子標的治療を推進する上で、極めて有益と考える。
さらにFos阻害剤の投与方法、投与濃度などの条件を変えて実験を進め、抗腫瘍効果を高める方針である。
概ね予定通り研究が進行したが、阻害剤の至適濃度、投与方法の確立が困難であり、時間を要した。以下の消耗品を購入する予定である。Vivo 試薬(inhibitor含む)1,000,000円、 動物管理費用(餌代含む)300,000円、生化学実験試薬 150,000円、生化学実験器具 150,000円、細胞培養試薬 200,000円、細胞培養器具 100,000円。研究成果発表のための旅費に300,000円使用する予定である
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
J Clinical Investigation
巻: 123 ページ: 600-610
PLoS ONE
巻: 8 ページ: 1-9
10.1371