これまで多種類の悪性骨軟部腫瘍において染色体相互転座による融合遺伝子が発見され、その遺伝子産物である融合蛋白質が組織特異的な腫瘍の発生に関与していると考えられている。明細胞肉腫では12番染色体と22番染色体の転座による融合遺伝子EWS/ATF1が発現しており、融合蛋白質EWS/ATF1が異常な転写活性を引き起こすことで、発がんを誘発していることが予想されている。しかしながら明細胞肉腫の発生における、EWS/ATF1融合遺伝子の詳細な役割に関しては未だ解明されていない。そこで本研究ではEWS/ATF1トランスジェニックマウスを用いた腫瘍モデルの作製を試み、腫瘍発生のメカニズムを検証した。 まずドキシサイクリンによりEWS/ATF1融合遺伝子を発現誘導できるトランスジェニックマウス(以下EWS/ATF1発現誘導マウス)を作製したところ、EWS/ATF1発現マウスの全例で、全身の皮下組織に多発性する軟部腫瘍が発生し、組織学的には明細胞肉腫と類似した特徴を有していた。この腫瘍から樹立した細胞株(G1297)のマイクロアレイ解析により、EWS/ATF1の発現誘導がFosの発現量を著明に増加させることが判明した。Fosのプロモーター解析では、EWS/ATF1がFosプロモーター上のcAMP-resposive element (CRE)に直接結合してFosの転写を活性化していた。FosをsiRNAにより抑制するとG1297の細胞増殖能は抑制された。ヒト明細胞肉腫細胞株の増殖能もFOSのsiRNAにより抑制された。Fosのinhibitor(T5224)をEWS/ATF1発現誘導マウスに経口投与したところ、一定の抗腫瘍効果が認められた。 今回の研究で、EWS/ATF1は明細胞肉腫の増殖と維持に必須であり、FOSは明細胞肉腫の分子標的治療の重要な標的候補になり得ることが示唆された。
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