研究課題/領域番号 |
24592233
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中 紀文 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90601964)
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研究分担者 |
吉川 秀樹 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60191558)
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キーワード | 骨軟部腫瘍 / 実験動物モデル / 整形外科 / 転移能 |
研究概要 |
骨軟部肉腫は骨に生じる悪性骨腫瘍と筋肉などの軟部組織に生じる悪性軟部腫瘍に大別される疾患群である.その予後は原発巣の状態ではなく転移病巣によって左右され,現在でも悪性骨腫瘍の30%,悪性軟部腫瘍の約半数の症例は経過中に肺転移を生じ不幸な転帰を辿る.我々が樹立したマウス骨肉腫細胞株LM8は悪性骨腫瘍の肺転移過程を再現し研究材料として高い評価を得ているが,軟部肉腫の肺転移再現動物モデルは存在せず研究が著しく遅れている.本研究は世界に例のないマウス軟部肉腫高肺転移株の樹立と肺転移再現動物モデルの構築を主たる目的とする. 研究実施計画「後期肺転移能を高めたマウス軟部肉腫細胞株TR6BC1-LMLの樹立」において,C3Hマウスに自然発生した良性神経系軟部腫瘍TR6BC1を用い,尾静注→肺転移形成→in vitro細胞培養→再度尾静注の操作(Fidler法)を繰り返しTR6BC1-LMLを樹立した.2次元培養下で長紡錘形の形態をとり単層性に緩徐に増殖する親株TR6BC1に比べ,本細胞株は小型で短紡錘形の細胞からなり重層性に増殖することが観察された.本細胞株はC3Hマウス尾静注により100%の確率で肺転移を形成するため,多段階からなる肺転移形成過程のうち,後半の血管外浸潤,肺組織への生着・増殖に長けた細胞株を樹立することができた. さらに本細胞株をマウス背部皮下に移植したところ,ほぼ100%の確率で肺転移を形成し担がんマウスを死に至らしめることが確認された.本細胞株(高肺転移株)は2次元の増殖能は親株と同程度であったが,3次元の増殖能やマウスでの腫瘤形成能は親株に比べ増大傾向にあることが観察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,親株を皮下に移植した群の血中循環腫瘍細胞(CTC)を採取・増殖させること(CTC培養・増幅法)で「前期肺転移能を高めたマウス軟部肉腫細胞株TR6BC1-LME」を別途作成し,最終的にFidler法とCTC培養・増幅法を交互に行い,より転移能の高い細胞株を作出する予定であった。 しかしながら、すでに作製されたTR6BC1-LMLがマウス背部皮下に注入するだけで高率に自然肺転移を生じ軟部肉腫の肺転移過程を再現することから、本細胞株を前・後期の肺転移能を高めたマウス軟部肉腫細胞株として用いることが可能と判断した.このことから,本研究の主たる目的である「マウス軟部肉腫高肺転移株の樹立と肺転移再現動物モデルの構築」作業はおおむね達成されたものと考えられる. 以降の実験において,「TR6BC1-LML」を「TR6BC1-LM」と命名した.
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今後の研究の推進方策 |
親株である良性神経系軟部腫瘍TR6BC1と高肺転移株TR6BC1-LMの運動能,浸潤能,マウスでの腫瘤形成能,肺転移能を比較検討し,両細胞株の in vitro, in vivoでの生物学的機能の差を解析中である. さらにマイクロアレイなどを用いた発現解析から両細胞株の生物学的機能の差を生じる機能分子の候補を複数確認しており、絞り込まれた分子の詳細な機能解析を順次行う.すでに神経系細胞で軸索伸展や遊走能に関与するシグナル分子が候補機能分子として有力である実験結果を得ており,本機能分子をターゲットにした解析実験を実施し,肺転移過程を制御する機能分子の同定を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
動物実験に用いる細胞株の供給が一時期不安定となったため,当初予定していた動物実験の一部を計画通りに遂行できなかった. 実験環境を再整備し,現在までに親株,高肺転移株ともに安定的な培養と供給が可能となった.当該年度に実施できなかった実験を含め次年度の計画を再調整し,再計画に沿って動物実験を行う予定である.
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