研究課題/領域番号 |
24592236
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
日浦 健 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 客員研究員 (60554342)
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研究分担者 |
尾崎 誠 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (20380959)
小関 弘展 長崎大学, 大学病院, 助教 (70457571)
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キーワード | 酸化チタン / 感染 / インプラント |
研究概要 |
酸化チタン(以下TiO2)処理したステンレス鋼(SUS316L)スクリューピンを,週齢7週のSD系SPFラットの皮膚から大腿骨へ挿入した。ピンの刺入部周囲に黄色ブドウ球菌標準株の菌液を散布した後,体外から近紫外線(UV-A;波長352 nm,照度1.82mW/cm2)を照射した。2週間後にピン周囲の骨軟部組織を採取し,UV-A照射時間を0分群(コントロール),30分群,60分群に分け(各群35肢),肉眼所見,骨組織像における感染兆候を評価した。肉眼的所見は,コントロール群の82.9%に浸出液や排膿を認めたのに対し,30分群は40%,60分群は31.4%に抑制されていた。骨-インプラント接触率は,コントロール群で44.9%と低かったが,30分群は71.4%,60分群は83.3%と骨破壊が少ない傾向を示した。細菌コロニー・好中球占拠率は,コントロール群の31.8%に比べて,30分群は13.3%,60分群は8.4%であり,時間依存性に低下した。次に①UV-Aを30分照射した群,②菌液散布後UV-Aを照射しない群,③菌液は散布せずUV-Aのみを照射した群で比較した。接触率は,①群で平均71.4%,②群で平均44.9%,③群で平均93.9%であった。細菌コロニー・好中球占拠率は,それぞれ①平均13.3%,②平均31.8%,③平均1.8%であった。Bone infection score(18点満点)は,それぞれ①平均9.1点,②平均14.9点,③平均2.7点であった。TiO2ピンは,生体材料であるステンレス鋼以上の骨親和性を示し,周囲軟部組織の細菌量を減少させ,創外固定ピンの深部感染と緩みを防止することがわかっている。更に,TiO2ピンの光触媒効果による骨組織への影響は殆ど無かった。TiO2ピンのみでは明らかな感染抑制効果は無く,体内に埋入して光が届かなくなった場合には周囲組織への影響はないと考えられる。また,感染が起こった場合は創を開放創にして光が届くようにすれば,光触媒活性が発現し,インプラントを抜去せずとも感染の鎮静化を図る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットによるin vivoモデルを作成できたこと、それを使っての創外固定感染の病態を再現し、これに有効な酸化チタン処理を証明できている。昨年度はこの酸化チタンの生体への悪影響について調査し、光が当たらない環境では周囲の正常組織への悪影響はほとんどないことが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
上記経過を踏まえて、今後は光照射の方向や強度を変化させて、より効率的な光触媒活性を発現させる設定を模索していく。また、最近は光がなくても超音波によって酸化チタンが活性化するという報告が出ており、これを踏まえてより実践的な検証へと発展させていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
学会活動に関わる旅費や論文掲載にかかる金額が計画よりも多くなったことと、酸化チタン表面の物理的特性を評価するのに費用がかさんだことが考えられる。 研究費が今年までなので、主にはこれまでに蓄積されたデータをまとめ、論文に発表していくことと、掲載に至るまでの諸費用に充てたいと考えている。
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