研究課題/領域番号 |
24592240
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
藤間 保晶 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (60448777)
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研究分担者 |
朴木 寛弥 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (40336863)
田中 康仁 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (30316070)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 移植・再生医療 / 処理骨 / 液体窒素 / osteogenesis / 間葉系細胞 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
悪性骨軟部腫瘍の手術では従来は広範囲の骨軟部組織の切除が必要であり、関節近傍の腫瘍や特に小児では大きな機能障害の残存の懸念があった。そこで我々は患肢温存を目的に術中液体窒素を用いた腫瘍細胞死滅処理による処理骨移植の臨床応用に着目した。しかし、本法の問題点として液体窒素による温度処理により正常細胞までが死滅し、それに伴う種々の細胞活性の失活、骨形成能の低下、骨力学的脆弱化・骨圧潰、易感染性等が挙げられる。本研究では、これらの低下した細胞活性を回復する手法を開発することに挑戦する。
平成24年から、研究代表者である藤間等が開発した『細胞致死処理骨に生細胞を搭載した骨補填システム(特許第3951023)』の研究を参考に、液体窒素処理自家骨モデルを用いて、実際の臨床手術手技を想定したFischer344ラットを用いた動物実験モデルを作成した。細胞活性の賦活化には、臨床治療により近い手法を念頭にした再生医療による幹細胞制御技術を登用した。その結果、細胞培養により自家骨髄細胞より間葉系細胞を獲得し、液体窒素自家処理骨に注入・浸漬して間葉系細胞を複合化する手法を採用した。間葉系細胞を付加した液体窒素自家処理骨をラット皮下に移植して、生化学的、組織学的に検討した。組織学的に培養細胞を搭載することで、一部の移植骨で新生骨の形成が確認され、現在、血管形成能を含め各種mRNA遺伝子発現を測定中である。
また、本手技の欠点として、処理骨に付加される細胞活性にバイアスを認めることである。如何に細胞活性を確実に骨形成能の乏しい部位に骨形成能を付与できる手技に完成させるかが今後の命題である。そこで現在、細胞移植時に、処理骨と細胞の接着性を維持する為に、細胞接着促進因子(ファイブロネクチン、血清タンパク)を使用した検討も行っている。更には薬剤投与による骨形成促進技術の開発検討も併せて行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
臨床手術の現場を想定した手法を念頭に、動物実験モデルを作成し、液体窒素処理自家骨移植のin vivo studyを行ってきた。その結果、培養により獲得したfreshな間葉系細胞を液体窒素処理自家骨に複合化させることで、生化学的に骨形成能の付与、組織学的にも新生骨形成が確認され、昨年、国際幹細胞学会で報告した。その検討により、本手法の弱点も見出すことができた。 そこで、その弱点を克服する手法について、細胞接着に着目し、培養で獲得した細胞活性に富む細胞を如何に目的組織に留まらすかについての検討を開始した。細胞接着因子として先行文献よりFibronectin、臨床医療により近い存在であるserumを選択した。細胞の接着評価という観点から、scaffoldのバイアスをなくすために、まずはscaffoldには人工骨を用いて行った。scaffoldへの細胞の浸漬方法から検討を開始し、シリンジ陰圧吸引による手法を確立し、浸漬後の細胞接着因子の処理方法についても種々検討した。その結果、serumについては、一定の結果が得られ、論文報告の準備段階に至っている。 更には、レシピエントへの薬剤投与による骨形成能の付加手法の開発という挑戦的pilot的な検討も開始した。薬剤にはポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤を選択して、in vitro, in vivoでのstudyを行っており、本検討から既に骨形成に関する新たなメカニズムが見いだされようとしている。このような状況から、液体窒素処理骨、処理骨再生に培養骨髄由来間葉系細胞を用いた検討から、多方面の骨形成に関する検討結果が出始め、既に一部では報告も行えていることから、進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
再生医療による細胞培養技術により、液体窒素により細胞活性の低下した処理自家骨に、骨髄由来の培養間葉系細胞を複合化することで、液体窒素処理自家骨に細胞活性能を賦活化することが示された。現在、最終段階に遺伝子発現レベルでの検証に取り掛かっている。 今後は、臨床応用に至るためには、安全性、確実性を保証することが重要であり、細胞活性の付与の確実性を求めた手法の開発をあらゆる方面から検討していく。具体的には、現在、移植細胞のscaffold、レシピエントとの細胞接着の面からアプローチする手法の開発を行っている。 更には、低下した骨組織に対し、細胞活性の付与、賦活化、いわゆる新生骨の形成を薬剤で可能にするという画期的なstudyについても検討している。本手法を見出すにあたっては、そのメカニズムを探求し、証明する必要性もある。この手法の開発は、本研究のテーマである悪性骨軟部腫瘍に対する骨軟部組織の温存、患肢温存のみならず、一般的な骨障害、骨折を中心とした外傷にも応用が可能になる期待も十分にある。特別な培養システムを有さない一般病院でも臨床応用が可能な運動器再建の手法の開発に結び付けたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった小動物用の創外固定器(米国社製)の購入取扱いが不可能と判明し、購入取り止めになった為
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度となるため、現在、施行している本研究が骨再生のメカニズム探求という面にまで展開しており、その実験計画に基づいての分子メカニズムの評価試薬(具体的にはmRNA測定評価に使用する、所謂、リアルタイムPCRで使用するprimer、SYBR green real-time PCR Kit、Taqman gene expression assay)、一般試薬、プレパラート作成、人工骨、実験動物の購入に使用予定である。
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